第16話 病院


 あれからペガサスの羽で街へ戻った俺らは宿屋に泊まり、消耗したMPを回復してから、ログアウトした。


 自室で目覚めた俺がベッドから身を起こすと、外はもう夕方だった。


 今日は和美も頑張ってくれたし、直接会って褒めてあげよう。これもお兄ちゃんの役目なのさ。


 なんて自分に言いながら、俺は上機嫌に着替えて病院へ向かう。


 和美が入院している病院までは、歩いて二〇分。


 面会時間ギリギリに受付を済ませて、俺は和美の病室のドアをノックした。


「和美ー。お兄ちゃんだぞー」

「…………」

「さっきはありがとうな、流石は我が妹、コンビネーションはバッチリだぜ」

「………………」


 和美のベッドに歩み寄り、椅子に座ると、俺はベッドで寝ている和美の頭をなでた。


 俺の目の前には、ベッドに横たわったまま、起き上がることもできない……本来なら高校に通っているはずの少女が天井をみつめていた。


 薄く開いたまぶたの隙間から、大きな瞳が、くるんと俺を見た。



「今日はご褒美にお兄ちゃんがご飯を食べさせてあげてもいいぞ♪」


 僅かに開いた唇から、囁くような声が漏れる。


「何言っているのよ、ばか」


 和美の左腕が、僅かに反応する。


 俺はその腕を取って、和美の手で俺の顔を叩いた。


 和美のしたがっている事をさせてあげるのは、俺の役目だ。


 これが和美の現状。


 彼女は病に冒されている。


 全身の筋肉が動かなくなり、やがては心臓と呼吸も自力ではできなくなる病だ。


 俺が元から好きだったネトゲに、どっぷり浸かった理由。和美がネトゲ世界で『無双の戦乙女』と呼ばれる理由。


 それは、仮想世界でなら和美と一緒に体を動かして遊べるからだ……


 それは、プレイ時間が誰よりも長いからだ……

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