第14話 一階層ボス!
「おっと雑魚に構っている場合じゃないな」
「そうね、ゴミに構っている場合じゃないわね」
俺と和美は一緒に振り返って、ボス部屋の中を見回した。
薄暗い部屋に、突然明りが点いた。
部屋の壁をぐるりと囲むように配置されている松明が、門の近くから順に燃え上がったのだ。
部屋はドーム状で、天井まではおよそ二〇メートル。
門から部屋の中央よりやや奥までの地面が、不自然なほど平らにならされている。
人工的な床の先には、岩を削って作った見事な彫刻の玉座。
座るのは当然、
BOSS:ゴブリン王
レベル:21
HP:21000
デカイ。
ゴブリン達の身長は約一メートル強。
対するゴブリン王は、明らかに三メートルを超えている。
同じゴブリンとは思えない巨体だ。
体のところどころに金属甲冑を身につけ、頭には古ぼけた王冠を被っている。
らんらんと輝く赤い眼が俺らを睨みつけて、乱杭歯を開けて人ならざる咆哮を上げた。
玉座から腰を上げ、丸太のように太い足で一歩進むと、ズシン、という重量感たっぷりの効果音が鳴り響いた。
俺らとは五〇メートルは離れているのに、足下には僅かな振動を感じる。
これがハーフ・オンライン一界のボスモンスター。
ゴブリン王は、顔じゅうに刻まれた深いシワを歪めて、右手で腰から巨大な両刃剣を抜き構える。
再び咆哮を上げ、ゴブリン王が駆けた。
現実世界に例えるなら、まるでアフリカゾウの突進だ。それぐらいの圧迫感と恐怖感が、質量を伴って降り注ぐ。
でも、臆してなんかいられない。
「いくぞ和美!」
「いくわよお兄ちゃん!」
俺らは左右に分かれて疾駆。
何も持たない左手に、俺の剣が襲い掛かる。
大剣を持った右手の剣に、和美の雷属性魔法、サンダーが襲い掛かる。
左腕で俺の剣をガードしようとしたゴブリン王は、サンダーで感電して動きが硬直。クラッシュ状態になったのを見計らって、俺はゴブリン王の左わき腹に渾身の一撃を見舞った。
クラッシュ状態とは、相手がたたらを踏んだり、硬直したり、相手が隙を見せた状態だ。
この時の敵は防御ができず、こちらの攻撃は全てクリティカル扱いになる。
このクラッシュ状態が常に続く状態を、ブレイク状態と呼ぶ。
弱り切った敵が無防備状態になる事があるが、それがブレイク状態だ。
ゴブリン王が悲鳴を上げる。
大きく剣を振り回してきて俺らを遠ざけようとするが、俺らは素早く身を伏せて回避。
身を伏せながらゴブリン王の左ひざへ剣の切っ先を突き入れる。
和美は右膝に至近距離からサンダーを浴びせた。
魔法戦士の特徴、それは魔法の威力が敵との距離でかわる事だ。至近距離ともなれば、その威力は凄まじいものがある。
ゴブリン王が崩れ落ちるようにして膝を折った。
下がった頭を見逃さず、俺らは奥義を発動させた。
ハーフ・ハンドレッドには、通常攻撃、MPを使った魔法と体術、そしてTPを使った奥義がある。
TPは敵にダメージを与えたり、逆に敵からダメージを与えられると溜まるゲージだ。
これが溜まると、それぞれの職業とプレイヤーのパラメーターに応じた必殺技が使える。
俺と剣と、和美の槍が金色の光をまとった。
「サンダー・ジャベリン」
「スター・スプラッシュ!」
まずは和美のサンダー・ジャベリンが爆裂。
槍で虚空へ鋭い突きを放つと、そのまま槍の穂先から巨大ない雷の槍が生み出されて、ゴブリン王を顔面からまるごと吞みこんだ。
間髪入れず俺のスター・スプラッシュが炸裂。
俺の右手が超高速で連続突きを放ち、剣は金色の尾を引きながら、ゴブリン王の顔をメッタ刺しにしていく。
奥義の連続で、ゴブリン王のHPバーが一気に半分以下になって、色がグリーンからイエローになる。
でも手ごたえが無さ過ぎる。
確かに俺らは効率のいいレベル上げでかなり強い自身はあるけど、五人パーティーなら倒せる気が、
「てめぇええええらあああ、よくもやってくれたなぁ!」
門が開いて、さっき俺らがあしらった雑魚パーティーが入って来た。
「うおっ、なんだよあれ、もうHPがイエローじゃねえか」
俺らが減らしたHPなのに、連中は嬉々としてこちらに走って来る。
にゃろう……俺らの苦労を横取りする気だな。
「■……■■■」
ゴブリン王が低いうめき声を上げてから突然立ち上がる。
お、これってもしかして第二段階突入って奴か?
ゴブリン王は激昂して、滅茶苦茶に大剣を振り回し始めた。
大剣が赤い発光エフェクトを帯びて、俺らに襲い掛かる。
「危ない!」
俺は駆け寄って来た雑魚パーティーリーダーの背中へ身を隠した。
「へっ?」
リーダーの体が、縦一文字に断ち斬られた。
リーダーは頭から股間まで、縦に一本のライトラインを引かれてHPバーが一気に赤くなった。
ゴブリン王が奇声を発しながら、バーサーカーのようにして大剣を振るいまくって。
縦に、横に、斜めに、刃を縦横無尽に暴れさせながら乱舞する。
敏捷値の高い俺と和美は知的に、戦略的に、巧みに雑魚パーティー達(五枚のシールド)の背後へ隠れてやり過ごす。
人間大の盾が一枚、また一枚と砕け散り、街の神殿へと帰って行く。
「ちっ、残りの盾は赤いの一枚だけか」
「お兄ちゃん、このアイテムを如何にして上手く使うかが勝利のカギよ」
「てめぇら俺様をなんだと思ってやがる‼‼」
HPバーが真っ赤なリーダーが、ゴブリン王そっくりの顔で怒鳴る。
「!?」
その時、俺の頭に閃くものがあった。
俺の体術には『インパクト・タックル』という、相手を吹っ飛ばすのに適した技がある。
「ごめん! 俺らが悪かったよ!」
「え!? な、なんだよ急に、いまさら謝ったって、でもそうだな、お詫びにレアアイテムの一つも」
「インパクト・タックル!」
「ほげぇええええええええええええ!」
リーダーがゴブリンみたいな奇声を発しながら斜め上にカッ飛んだ。
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