第13話 日本刀ゲット


「ありがとうトウリ殿、これは我が家の家宝ですじゃ」

「どうも」


 戦闘終了。

 クエスト達成と認められたのは、当然俺と和美のパーティーだった。


 悔しそうに歯ぎしりしたり、野次を飛ばしてくる連中に身守られながら、俺と和美は村長から細長い箱を貰った。


 形からすると武器。長さからすると剣だろう。


 はてさて中身は、一界ボスに有効な特性を持った剣なら俺が、


「で、中身は何よ」


 俺が抱える宝箱を、何の前触れも無く和美が開けた。


「おい和美お前勝手に……い?」


 俺は首を傾げた。

 だって宝箱に入っていたのは……


「日本刀?」


 それは紛れもなく、日本刀だった。


 緩やかに湾曲したライン。


 鞘といい、唾の形状といい、どうみても時代劇に出て来る日本刀に間違いない。


 クエスト達成を逃した他のプレイヤーもひそひそと話し始める。


 ハーフ・ハンドレッドに日本刀なんてあったんだな。


 シミターという湾刀ならあるが、中世ヨーロッパ風の世界観を持つハーフ・ハンドレッドに日本刀があるとは思わなかった。


「お、すげえパラメーターだな。見てみろよ」


 刀のパラメーター画面を開いた俺は、パーティーメンバーにも見えるよう、準可視化した。

 他のプレイヤーには見えないが、和美は口笛を吹いた。


「すご……威力も振りの速さも今持ってる剣より全然いいじゃない」


 その代わり、備考欄にはら定期的に鍛冶屋で手入れが必要なことが記載されている。

 これぐらいなら、デメリット無しと同じだろう。


「じゃあ俺剣士だし、早速装備してみるか」


 空間に表示されたウィンドウから装備を選択、それから、武器欄の『雀丸』を選択。


 ブッブー。


 そんな電子音と共に、装備不可の文字が表示された。


「あれ? 装備できないぞ?」

「本当? ちょっとあたしの方に送ってよ、魔法戦士なら装備できるかも」


 俺は刀を和美のアイテムボックスに送って、和美は指先でウィンドウを操作。

 そして、


「あれ? あたしも装備できない? なんで?」


 和美が眉根を寄せると、途端に周りから笑い声が起きる。


「ぎゃはははは! なんだよそれ、全然意味ねえじゃねえか!」

「残念だったなおい」

「こりゃ別にクエスト達成できなくてもよかったかもな」


 笑っているのは、バトル前に俺に話しかけて来たガドルフのパーティーだった。

 大口を叩いておきながら、クエストを達成できなかった腹いせのつもりか、ここぞとばかりに笑っている。


「~~、お兄ちゃん、あいつら刺していーい?」

「やめなさい」


 モザイクが必要なほど殺意に満ちた表情の和美。


 俺は猛獣の頭をぽんぽんと優しく叩きながら落ち着かせる。


 でもどうして剣士の俺が『刀』を装備できないんだ?


 ハーフ・ハンドレッドには『サムライ』という職業は無い。


 魔法戦士の和美も装備出来なかったし、まさか槍兵や弓兵が装備できるということはないだろう。


 そうなると、もしかして初期職業で選べないだけで『サムライ』っていうレア職業が存在するのか?


 俺は頭を悩ませながら、クエストを終了するのだった。


   ◆


「昨日ぶりだな、このダンジョンも……」


 クエストから一時間後。

 街でHPとMPを回復させむかったのは、一界のボスモンスターの所だった。

 ボスダンジョンである洞窟の中を走りながら、俺は隣を走る和美へ話しかける。


「ボスの部屋までマッピングはあたし達も終わっているわ。でも他のプレイヤーは、ボスに挑んでみんな負けている。どうして負けたのかはみんな黙っているけど、噂を集めた限りだと普通に強いだけらしいわよ」


 和美は方眉を上げて俺を見る。


「特殊な能力ならともかく、ただ思ったよりレベルが高くて負けただけって、そりゃ恥ずかしくて言いたくても言えないわな」


 残念ながら結局、日本刀を装備する方法は解らなかった。


 でも、俺と和美のレベルなら普通に倒せるだろうと踏んで、俺らはここにいる。


 ここへ来るまでに、ボスへのルートは確認済み。


 最短コース、ではなく、最も戦闘数が少なくて済むルートをひた走った。


 モンスターが少ない場所や、いても好戦的なモンスターの出ない場所を可能な限り選んだつもりだ。


 その甲斐あって、俺と和美はほとんど敵に出会わず、出会ってもすり抜けてボスの部屋まで辿りつけた。


 ごつごつとした、自然の岩壁から一転、岸壁に埋め込まれた重々しい鉄の門は、明らかに人工のものだ。


「最初のボス戦。できれば、いや、確実に一回でキメるぞ和美」

「ええ、それじゃあ」

「あ! お前ら!」


 背後の声に振り返ると、俺達が来た道とは別の道から、別の五人パーティーがやってきた。


 装備を見る限り、剣士、槍兵、弓兵、魔法使い、僧侶らしい。


 俺は連中を睨みつけて、剣を構える。


「お前らもボス狙いか?」

「そういうお前らもそうらしいな。けっ、役に立たない刀でどうやって戦う気だよ」


 話ぶりから、どうやらさっきのクエストに参加していたらしい。

 それをわざわざ言うなんて性格悪いなぁ。


「いいんだよ、俺は普通に剣で戦うから」

「へっ、こうなりゃどっちが倒すか競争だな」


 連中は見下した目で俺らに視線を投げる。

 俺はちょっとムッとして、指で空中に丸を描く。サインモーションでウィンドウが開いて、俺はさらにアイテムボックスを開いた。そして……


「あん? おいトウリ、なんてお前しびれ爆弾出しているんだよ? ボスに効くのか?」

「和美、門開けてくれ」


 頷いて、和美が門の片側を開けた。


「おいおいお前ら、中にしびれ爆弾投げる気か? 戦争映画の主流弾じゃあるまいしそんなのが」


 俺はしびれ爆弾を足下に投げつけて、和美と一緒にボス部屋へと飛び込んだ。


「ひぎいいいいいいいいいいい!」

「体がぁああああああああ!」

「覚えてやがれェエエエエエエエ!」

「ひきょうものぉおおおおお!」

「くそがああああ!」


 門を閉めて、俺は毒づく。


「馬鹿野郎! こちとら東京湾に沈められるかどうかの瀬戸際なんだよ!」

「あんたらとは背負っているモノが違うのよ!」


 和美も門に向って思い切り中指を立てた。


「おっと雑魚に構っている場合じゃないな」

「そうね、ゴミに構っている場合じゃないわね」

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