第12話 ゴブリン騎兵団




 俺は口をひんまげる。

「ちっ、役に立たねぇ雑魚共だぜ」


 和美はゴミを見るような目で。

「どうせ死ぬなら人様の役に立ってから死ねばいいのに」


 俺らの発言に、周囲のプレイヤーがちょっと距離を置いた。


 最初の一三人を撃破したゴブリン騎兵団は土ぼこりを上げ、大地を唸らせながら俺ら目がけて突貫。


 いくらゲームと言っても、ランドバードの巨体が群れを成して迫る光景には、原始的な恐怖を感じずにはいられない。


 だからこそH2は、VRMMOはやめられない。

 現実じゃ味わえないドキドキの緊張感。

 普段は安全で平和な現実世界を教授して、刺激が欲しくなったらゲーム世界へ、まったく本当に。


 俺は口角を上げる。


「いい時代に生まれたもんだぜ!」

「行くわよお兄ちゃん!」

「おうよ!」


 和美が、このシチュエーションにテンションを上げながら走り出す。

 ゴブリン騎兵団はもう目の前。

 他のプレイヤー達も駆けだして、俺も体を一気に前へ加速させる。

 俺と和美は、持ち前の敏捷性でランドバードのクチバシとキックを回避。剣を引いて、続くゴブリンの湾刀も避けた。


「将を射んとすればまず」


 刀身にライトブルーのエフェクトをまといながら、俺はカウンターの一撃をランドバードに見舞った。


「馬を射よ!」

 ランドバードの横っ腹を斬りつけると、ランドバードのHPバーがそれなりに削れる。


 HPバーは、ゴブリンとランドバードにそれぞれある。


 ランドバードに乗ったゴブリン、という一つのモンスターでは無く、二種類のモンスターが組んでいる状態らしい。


 俺は体を逸らし、足捌き体捌きで敵の攻撃をかいくぐりながらランドバードを斬りつけていった。


 すると三度目の攻撃で、ランドバードが悲鳴を上げてゴブリンを振り落として、走り去った。


「チャーンス!」


 俺の振り下ろした剣がゴブリンを両断。

 ゴブリンはなすすべもなくガラス質になって砕け散った。

 そうか、このクエストは多くのゴブリン、盗賊団を倒した奴の勝ち。

 つまりランドバードは倒さなくてもいいんだ。


「和美!」

「うん、見てたわよ! まずは馬ね」


 タネが解れば早い。

 敏捷値を上げまくっていた俺と和美は回避に専念。

 ランドバードのクチバシ、キック、ゴブリンの湾刀。

 この三連続攻撃が終わるとカウンターの一撃を叩きこむ。

 振り落とされたゴブリンにトドメを刺していく。

 他のプレイヤーも俺らの戦い方を真似し初めて、同じようにゴブリンを倒していく。


「まずいな」


 俺の胸を、焦燥感が焦がし始める。


 今はまだ、最初に攻略法をみつけた俺達がリードしているが、こちらは二人。


 時間が経てば、四、五人パーティーを組んでいる連中が徐々に追い付いてきて、いずれは抜かされる。


 マップの端からは、まだまだ新しい敵が現れている。この戦闘はしばらく続くだろう。


 人手の差で負ける。

 ここは何か別の方法を、

 俺のカウンターが、ランドバードの足を払った。

 ランドバードが転倒、ゴブリンは足をランドバードの下敷きにされて動けない様子だ。


「!?」


 その時、俺の頭に閃くものがあった。

 ゴブリンにトドメを刺してから、俺は走った。


「こっちだ和美!」

「どうしたのお兄ちゃん、そっちは敵が来ている方じゃ」


 和美は尋ねながらも、俺に着いてきてくれる。


「ああそうだ。他の連中に真似されるわけにはいかないからな。和美、マッドフィールド」

「え? ……ああ、そういうこと」


 俺の言いたい事を理解した和美は、にやりと口角を上げた。


 俺らは乱戦場から離れて、次々ゴブリン騎兵が来ている方へと走った。


 奇声を発しながらランドバードにまたがるゴブリン達の間を縫うようにして走る俺らに、誰も着いてこない、いや、着いてこれない。


 何度も説明しているように、俺と和美は二人揃ってスピードタイプのプレイヤーだ。


 動きの鈍いパワータイプや、重装備のプレイヤーやその仲間は、ランドバード達の間を縫いながら走るなんてマネはできないだろう。


 ハーフ・ハンドレッドは装備の重さに寄っても敏捷、アバターの動くスピードが変わる仕様だ。


 俺と和美は、パラメーターの敏捷値だけでなく、装備も軽装鎧で、スピード重視にしている。


「よし!」


 俺と和美は、ゴブリン騎兵団の切れ目に出た。

 左右にゴブリン騎兵の姿は無く、前方に新しいゴブリン騎兵達が大地を踏みならしながら走って来る。


「今だ和美!」

「言われなくっても! マッドフィールド!」


 土属性と水属性の呪文を覚えたプレイヤーだけが覚えることが出来る妨害呪文、


『マッドフィールド』


 敵の邪魔、状態異常系の魔法は僧侶の技だが、これは魔法使いや魔法戦士が覚えられる数少ない妨害呪文だ。


 和美が槍を横薙ぎに振るうと、水色の光が村の地面に湧きあがり、土が一瞬で泥へと変わる。


 沼地にの面積はおよそ三〇メートル四方。


 泥を踏んだランドバードは転倒。

 背後から次々くる後続のランドバードも綺麗にひっくり返り、玉突き事故のようになった。


 翼が退化し起き上がる腕を持たないランドバードはぶざまにもがきながら足をバタつかせ、味方を蹴ってダメージを与えあっている。


 小柄なゴブリン達はランドバードの巨体に圧し潰されながら蹴られてHPバーがみるみる減って行く。


 放っておいても死ぬだろうが、時間が惜しい。


「和美」

「ええ、準備完了よ!」


 俺が指示するまでもなく、和美の槍の先端がスパーク。

 和美は槍を高々と上げた。


「サンダー・レイン!」


 槍の穂先から放たれた雷の矢が、雨あられとゴブリン騎兵団に降り注ぐ。


 ゴブリンもランドバードもうめき声を上げながらその身をガラスへと変貌。


 まるで氷像の展覧会だ。


 沼地を埋め尽くす氷像が砕け散った。


 でもゴブリン騎兵団はまだまだ来る。


 来たら来た分だけすっ転んで、和美のサンダー・レインの餌食になる。


 もう、勝敗は誰の目から見ても明らかだろう。

  

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