第10話 初クエスト
「おい和美、これって……」
「ええ、間違いないわ」
闘技上のロビー。
そこのクエスト掲示板には、新しいクエストがいくつか張り出されていた。
その中でひと際目を引くのは、
ゴブリン盗賊団退治。
ランク:D 賞金:〇 賞品:村長の家宝
一〇界までのクエストはEランクかDランク。
つまり一界でDランククエストは難易度が高いはずだ。
なのに、
「Dランククエストなのに賞金〇。そんで賞品は村長の家宝って、間違いないわ、たぶんこの家宝ってのが凄いレアアイテムで、それがあればボスを倒せるんだわ」
和美は真剣な顔でクエスト票を見上げながら、ぐっと握り拳を作った。
「だろうな。でも、こんな解り易過ぎるクエストなら」
ちらりと視線を逸らせば、受付には多くのプレイヤーが並んでいる。
きっとみんな、このゴブリン盗賊団退治クエストに群がっているんだろう。
「行くぜ和美」
「ええ」
俺と和美も、受付の列に並んだ。
◆
一時間後。
俺と和美は、街から遠く離れた村にいた。
木造のみすぼらしい民家と、どこまでも続く畑と緑。
家畜も多く、牧歌的でのどかな空気が村全体を包み込んでいた。
俺らプレイヤーが集まったのは、井戸のある村の広場だった。
ここからでも遠目に、畑で農作業をしている村人の姿が見えた。
H2のゲームには子供の頃から慣れ親しんでいるが、ああしたNPC一人一人から足下の地面の砂粒まで全てがコンピューターグラフィックで作られているのだから驚かされる。
データ量はテラやペタ、エクサどころか、ゼタやヨタバイトでも済むまい。
なんて俺が思っていると、俺の耳がその言葉を拾った。
「おい見てみろよ。あれって『無双の戦乙女・カズミ』じゃねえか?」
「本当だ。あいつも来てたのかよ」
「まぁ実力的には当然じゃね?」
「隣にいるのは、兄貴の『最強の無課金ユーザー・トウリ』だぞ」
ふふん、流石に素顔プレイヤーだけあって顔が売れてるぜ。
素顔プレイヤーの特徴としては、やはり他のゲームでも一目置かれるというのがある。
アバターはゲームそれぞれで作る為、ゲームが変わればどんな凄腕ゲーマーの自己紹介をするまでは気付かれない。
でも素顔でプレイする人は、どのゲームでも同じ顔やスタイルの為、ゲームが変わってもすぐに解る。
このせいで警戒されやすくもあるが、逆に良い意味で戦闘を避けてくれる為、プレイしやすい場合もある。
というよりも、素顔プレイヤーは自分の顔を売りたいのが大半なので、まぁ、それが第一目的だ。
俺は妹の和美に合わせて素顔プレイをしている。
でも、凄腕ゲーマーとして一目置かれるのも悪い気はしない……というのも本音だ。
やがて、俺らの前に一人の老人が姿を現した。
「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。実はこの村は度重なるゴブリン盗賊団の襲撃にほとほと困り果てておりましてな。そこで皆さんに協力をあおいだというわけですじゃ。見ての通り貧しい村で、お金は払えませんが、ゴブリン盗賊団を退治して頂いたあかつきには、一番多くのゴブリンを倒した方に我が家の家宝をお渡しする所存ですじゃ」
『よっしゃあああああ!』
「家宝は俺がいただくぜぇ!」
「いいや俺だ!」
「俺が貰うんだぁ!」
他のプレイヤー達が湧きあがる。
そんな中、アバターを作り込んだ四人パーティーが俺らに歩み寄って来た。
どうして解るかと言うと、顔が明らかにゲーム顔だ。
いわゆる超美系の日本人というか日本人とも西洋人ともつかない、あの顔だ。
四人は美系というよりも、デザインされた感じの顔だった。
赤い甲冑に身を包んだ、先頭を歩くリーダーと思しき男が話しかけて来る。
「名乗らせて貰うぜ。オレはガドルフ、自分で言わせてもらうが一流のゲーマーだ。一界のボスは、俺が貰うぜ、ついでに賞金一〇万円もな」
「いいや、ボスは渡せないな。何せ、こちとら生活がかかっているんでね」
元から親父は失踪中で、それでも時々生活費が振り込まれていた。
でもヤクザがうちに来たと言う事はガチの逃亡生活をしていると見ていいだろう。
今後、生活費が振り込まれるとは思えない。
となれば、賞金一〇億円以前に、各界のボスを倒してもらえるミニ賞金も見逃せない。
子供手当だけで生活できると思ったら大間違いだぜ。
俺とガドルフの間に、バチッと火花が散った。
比喩ではなく、感情エフェクトの一部として、本当に火花が散った。
「あら、私にも挨拶させてもらえるかしら?」
新たな声のほうへ視線を投げて、俺は心臓が高鳴った。
俺と同じ素顔プレイヤー。
それも凄い美女の……超絶爆乳お姉さまだった。
彼女はネトゲ業界でも有名なグラビアモデルゲーマーだ。
周りにいるパーティーメンバーも、凄い巨乳美女ぞろいで、雑誌のグラビアなんかで見た顔ばかりだ。
なるほど、グラビアモデル仲間でゲームに参加しているわけですねハイ。
彼女達の服装はいずれもギリギリの露出度で、踊子のような衣装や、ビキニアーマーぞろいだった。
現実とほぼ見分けがつかず、人間の皮膚の質感まで完璧に再現するH2のアバター技術は、プレイヤーの肉体をスキャンして取り込めば、もうそれは本人そのものと言ってよい出来栄えだった。
いつもは写真の中でしかお目にかかれないグラビアモデルを生で目にして、俺は興奮が止まらない。
そのきめ細かく白い肌。
ビキニアーマーや衣装が絶妙に食い込んだ豊かで柔らかな尻肉と乳肉。
彼女達の動きに合わせて揺れる胸の揺れ具合など、神のイタズラとしか言いようの無い神秘だった。
俺はキメ顔で、
「どうもお姉さん。最強の無課金ユーザーこと狩谷刀利です」
俺の背中に、鋭利な刃物が刺し込まれた。
「ぎゃあああああ!」
背中を押さえながら振り返ると、両目を釣り上げた和美が槍を水平に構えていた。
「てめぇは急に何するんだよ!?」
「デレデレしているお兄ちゃんが悪いんでしょ! それにどうせ村の中ならダメージないでしょ! 痛みも無いのに大げさね!」
「痛くなくても感触はあるんだよ! 背中を刺し貫かれるリアルな感覚がな!」
仮想世界では、
視覚。
聴覚。
嗅覚。
味覚。
触角。
の全てが完全に再現されているが、触角の痛覚は別だ。
流石に痛みまでリアルに再現しては、ゲームとして楽しくない。
ただし触角はリアルなわけで、例えば背中を刺し貫かれると、痛みはないが硬いものが背中を貫き体内に侵入してくる感触がばっちりするわけだ。
痛くはないが、精神的にゴリゴリとくるものがある。
「ふふ、仲がいいのね」
俺はキメ顔であごに指を添える。
「ええ、僕ら、すっごく仲良しなんです」
頭を万力のような力でつかまれた。痛くは無いが、圧迫感はリアルに伝わって来た。
「あれ? 和美ちゃーん、なんでお兄ちゃんを引きずるのかなぁ?」
「…………」
「可愛い可愛い和美ちゃーん、なんで納屋の裏に」
人気のない場所で、和美の両拳が握られた。
「のぎゃああああああああああああああああああん‼」
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