第9話 効率優先


 ハーフ・ハンドレッドの世界は、全部の五〇のエリアに分かれている。


 五つの大陸を走る山脈が、それぞれの大陸を一〇のエリアに分けているのだ。


 この山を超える事は不可能。


 移動する為には神殿にあるゲートを通るしか無い。


 だが今、この世界は大魔王のせいでゲートが閉じているらしい。


 ゲートを再び繋げる各エリアのボスモンスターを倒すしかない。


 エリアはそれぞれが違う世界という古代の考え方から、最初のエリアから順に一界、二界という風に呼ばれる。


 五〇界に潜む大魔王を倒せば世界は救われてゲームクリア、という話らしい。


 文明はそれぞれの世界が独自に育んだという設定だが、基本になっているのは中世ヨーロッパ風。


 RPGにおけるもっともポピュラーな世界観だ。


 事実、最初のエリア、一界の街も、NPCの着ている服も他のRPG同様中世ヨーロッパ風だ。


 そしてゲーム開始から四日目。


 学校を休んでレベル上げに没頭する俺と和美は、街から少し離れた深い森の中にいた。


「フレイム・レイン!」


 和美が宝玉のはまった槍を振るうと、和美の頭上の空間から炎の雨が敵に向かって降り注ぐ。


 狙うは敵が集団で固まっている場所。


 ブルーゴブリン達は炎にまかれながら悲鳴を上げて、次々ガラス質になって爆散していく。


 集団から離れている奴は、剣士の俺が素早く斬り伏せる。


 すると俺の目の前に『WIN』の文字が表示されてからウィンドウが開き、加算経験値やお金が表示された。


 レベル上げのコツ。


 それはレベルの上げやすい敵を見つけることだ。


 普通のプレイヤーはただくれる経験値が多いモンスターを探す。


 でも少し巧いプレイヤーは、倒しやすさも考慮する。


 いくらたくさん経験値をくれても、倒すのに時間がかかる敵や、状態異常を多く使って来る面倒くさい敵はレベル上げに向かない。


 そしてもう少し巧いと、経験値をたくさんくれるモンスター一体を倒すよりも、弱いモンスターをまとめて倒したほうがいい事に気付く。


 まず何よりもバトル時間が短い。


 モンスター一体の強さと経験値を比較して、それなりに倒しやすく、でもそれなりに経験値をくれる。みんなそんな敵を探す。


 でもそれでは、それなりに時間がかかるという事でもある。


 だからすぐにぱぱっと倒せるけど、いつも集団でいて合計経験値が多い、そんな敵がレベル上げにはベストだ。


 つまりレベル上げの時はモンスター単独ではなく、モンスターパーティー全体で考えるのが重要だ。


 いくら弱くて敵が多ければ全員倒すのに時間がかかったり、囲まれたら面倒だと思うプレイヤーもいるだろうが、そこは戦い方だ。


 ハーフ・ハンドレッドは、レベルが上がるとどの能力値を優先して伸ばすか、スキルや技は何を習得するかを選べる。


 まずレベル上げ準備をする事に重きを置く俺と和美は、全体攻撃を優先した。


 剣士の俺は『回転斬り』や『乱れ斬り』など。


 限りなく魔法使いに近い魔法戦士である和美は各属性の最弱技を覚えると次に『フレイム・レイン』『アイス・レイン』など攻撃範囲の広い技を覚えた。


 バトル開始と同時に全体攻撃で敵を一掃。


 後は討ち漏らした奴を各個撃破。


 さらにすぐモンスターを発見できるよう、俺と和美はステータスの敏捷値の成長に重きを置いていた。


 とにかく敵を素早く発見して。

 素早くバトルを済ませる。

 そしてまた次の敵を探す。


 これの繰り返しだ。


 そして俺らは、フィールドやダンジョンを探索する中で見つけた。


 この森の、この辺りだ。

 エリアボスがいるメインダンジョンから少し離れたこの場所には、ゴブリンの集団がたくさんいるのだ。


 おまけにただ集団で出て来るわけじゃない。


 氷属性に弱いレッドゴブリン。

 炎属性に弱いブルーゴブリン。

 雷属性に弱いアクアゴブリン。

 風属性に弱いイエローゴブリン。


 が、それぞれ集団を作ってうろついていのだ。

 つまりレッドゴブリンの集団に会ったら、広範囲氷攻撃のアイスレインを撃ち込めば、一気に敵を一掃できる。


 でもってこのゴブリン、経験値をくれる量がなかなか悪くない。


 でもって一〇体前後の数でうろついているから、バトルでもらえる経験値量は一〇倍。


 でもってかかる労力は全体攻撃二、三回に各個撃破の為に通常攻撃数回だ。


 こんなにおいしいモンスターがいるだろうか?


 なのに気付かないプレイヤーは、ゴブリンの何倍も経験値をくれるからと言って、そこそこ強いモンスターを、そこそこ時間をかけて倒しているのだから御苦労だ。


 この狩り場を見つける時間を含めても、ゲーム開始三日目で一五レベルに達した俺と和美は驚異的だろう。


「よし和美。この辺のゴブリンは狩り尽くしちまったし、またフィールドに再出現するには少し時間がかかる。街に行ってクエスト見て来ようぜ」

「そうね。新しいクエストで何かいいのがあればいいんだけど」


 槍を背中に挿して、和美が両手を頭の後ろで組んだ。


「そういえば昨日ボスにチャレンジしたパーティーって、またやられたんだっけ?」

「ああ、そろそろ他のプレイヤーも一界のボス退治に動き始めているからな。早くしないと、ボスを倒した時にもらえるレアスキルやアイテムがゲームクリアのカギだからな」


 一界から四九階のボスモンスターを倒しても少額の賞金がもらえるとはいえ、あくまで本命はラスボス。


 なら四九界までのボスは他人に任せて、自分はレベル上げにだけ専念していればいい、というわけにはいかない。


 まずボスキャラはくれる経験値、お金が莫大だと言う事。


 大神殿の掲示板に表示されている、運営側からの情報だと、ボスキャラを倒せば間違いなくレベルが上がるし、次の界で装備を新調して各種アイテムを大量に買うことも夢では無いらしい。


 そしてレアアイテムやレアスキル、レアアビリティ。


 ボスは、必ずこの三つの内のどれか一つをくれるらしい。


 スキルというのは特殊な技能の事で、例えば俺は『投擲スキル』を持っている。


 これがないと使い捨て武器の投げナイフは使えない。


 加えて『投げ剣スキル』も持っているが、これを持っていると、手に持っている剣を投擲武器として使える。


 アビリティはMPを消費して使う技のことで、魔法使いならフレイムとか、フレイム・レインとかの魔法。剣士の俺は回転斬りとか乱れ斬りとかの体術がそれに当たる。


 レアスキルやレアアビリティは強力なものが多く、これを多く覚えていると、それだけラスボスを倒しやすくなる。


 つまり、ラスボスを倒したプレイヤーが優勝というこのゲームは、同時に各界のボスモンスターをいかにして多く倒すか、という勝負でもある。


 だから今日までに多くのプレイヤーが挑んで、でも負け続けているのが現状だ。


 最初のボスはいきなりの強敵らしい。


 普通、プレイヤーに楽しんでもらう為に最初のボスは弱いものだが、このゲームにその原則は当てはまらないらしい。


 俺と和美は、ペガサスの羽、という一瞬で最後に立ち寄った街へ戻れるアイテムを使用した。


 時は金なり。


 ペガサスの羽は少し高いが、代金をケチって歩いて街へ帰るよりはいい。

  

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