第49話 鉄拳!
「俺もそう思っている時期があった」
その言葉で傷の男の笑いが止まった。
「俺も、ついこの間まではてめぇみたいなゲス野郎と同じ意見だったよ、でもなあ、てめぇはこいつが親父と年何回会えると思っているんだ?」
「てめ……何を言って……」
「望んで金持ちになったわけでも無えのに、ただ生まれた家が金持っているってだけで周りから妬まれて、怨まれて、憎まれて、まだこんなチビガキなのに命狙われたり権力争いに巻き込まれたり、今だってこんなひでぇ目に合ってる……教えてやるよ……」
鷹徒は声を張り上げ言い放つ。
「金持ちがみんな幸せなんつうのはなあ! 俺ら貧乏人の妄想だったんだよ!!!」
傷の男はすかさず美羽の後ろに回りこみ銃を頭につきつける。
「動くんじゃねえ! このガキの命がどうなってもいいのか!?」
大またで近づきながら「なんだとてぇ!」
「わぁバカ、何近づいてんのよ!?」
「そうだぞてめぇ、このガキの命がどうなってもいいのか!?」
「狩羽、あんたお嬢様を見捨てる気!?」
鶫と美羽も叫んで鷹徒は僅か二メートルの位置で立ち止まった。
「撃てるのか?」
凄味を含んだ問いかけに、傷の男は動揺する。
「なんだと?」
「俺がこのまま近づいたとする、てめぇがそのガキを撃たなかったら俺は心置きなくてめぇをブン殴れる、でももしてめぇが撃ったとしてもそん時はそのガキを殺された事に対する俺の理不尽な怒りの鉄拳でお前はブン殴られる。
つまり俺が近づけばどのみちてめぇの負けだ!」
(理不尽過ぎる!!!)
と、全員が鷹徒に同じ思いを抱いた。
「そもそもこういうシチュエーションはB級映画でよくあるが、大事な人質殺してお前ら悪党に何のメリットがあるんだ? そんな脅し、俺には効かないんだよ!」
「くっそ!」
傷の男の顔が悔しさに歪んだところで、鷹徒の視線が傷の男からその背後へと向いた。
「今だ鷲男!」
鷹徒の声に、傷の男はハタとして振り向き銃を構えた。
「!!?」
そこには、誰もいなかった。
やられたと思った時にはもう遅い。
再び振り向いた時に確認できたのは、心臓が止まりそうなほど恐ろしい鷹徒の怒りの形相と迫る剛拳だった。
傷の男は咄嗟に両腕で顔を庇った。
どんなに強かろうと拳は拳、あくまで銃を持つ自分が優位だと甘い予想をしながら、鷹徒の拳をガードした。
ちなみに、物理学的に言うならば、物体の運動エネルギーは速さ×速さ×質量である。
だが、エネルギー量と威力は必ずしも一致しない。
同じエネルギー量でも、鉄とスポンジでは威力に大きな差が生まれるように、その物質が堅ければ堅いほど威力は増す。
昔、とある空手家がこう言った。
破壊力とは、速さ×体重×握力であると。
小学生にして握力計の最高値、一〇〇キロを越えた鷹徒が持つその規格外の握力を総動員して堅く握った拳、その威力は指による《鷹のクチバシ(イーグル・ビーク)》や《鷹の爪(イーグル・クロー)》などの比ではない。
鷹徒が本気を出した時、鷹徒は拳を解(ほど)いて指(ツメ)を開放する。
だが、真の怒りに目覚めた時、その手は再び拳を作るのだ。
「えっ…………?」
鷹徒の拳は男の両腕の骨も筋肉も潰し、それでも殺し切れぬ威力は男の鼻と頭蓋骨を打ち砕いた。
両腕が新たな関節ができたように曲がり、鼻からおびただしい量の血を流しながら、男は床に倒れたまま、もう動く気配はなかった。
「お前ら大丈夫かよ」
言って鷹徒はまず近くにいた美羽の縄をほどき、それから雫結の縄をほどく。
「だがどぐぅん!!」
安堵した雫結は滅茶苦茶な量の涙を流しながら鷹徒に抱きついて涙でグシャグシャの顔を胸板に擦りつけた。
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