第48話 伝説の男、参上!
鷹徒の化け物じみた力を傍観し、傷の男は諦めたように息を吐き出した。
理由は数あれど、ケンカが、戦闘行為が無い日が無いなどという、鷹徒を取り巻いてきた現実離れした環境。
その数、実に三千回、倒した敵の人数は延べ一万人越え。
試合ではなく実戦(ケンカ)。
戦う場所はデコボコした地面、ガラスや石ころの落ちたアスファルト、硬いタイルや床の上、周囲には外なら看板や道路標識のポール、ブロック塀、金網、室内ならばイスや机といった家具が並んでいる。
投げられたり転ぶだけでも危険な場所、そんな所で、時には武器を持った相手と、時には数十人もの大人数と、その両方が重なる時もあった。
鷹徒の細胞に刻み込まれた戦いの記憶、戦いにおいて二番目に大切な《経験》の量においては、間違いなく日本トップクラスである。
そして、戦いにおいて一番大切なモノ、戦う意志は言わずもがな、そこに三番目に必要なパワー、スピード、テクニックも申し分無しとなれば、鷹徒に勝てる道理など存在しない。
そこらの格闘技者には不慣れな多対一にも、リングとルール無しの環境にも、日常的に慣れ親しんだ鷹徒はついにナイフを持った男達を全員倒し、その最中に銃を持った男達も上手く倒していた。
それでも、離れた場所にいた銃の男達を完全に倒しきる事はできず、まだ二人残っていた。
男達が床に倒れ伏し、味方に当たる事が無いと、二人は遠慮なしにサイレンサー付きの銃を発砲した。
空気を貫く摩擦音だけを響かせる弾丸は、鷹徒の肩や脇腹を抉りながらも直撃する事は無く、接近した鷹徒の手刀をそれぞれ、みぞおちに喰らい、血を吐きながら倒れた。
返り血で燕尾服を紅く染め上げた鷹徒が殺意を溢れさせて傷の男に歩み寄る。
「他の階の奴は俺の仲間達が相手しているから助けなんてこねーからな、これであとはてめぇ一人だ」
鷹徒の迫力に気圧され、傷の男はまくしたてる。
「ま、待て、そうだ、俺達につかないか? てめえ執事なんか目指してんだろ? それよりもこのガキさえいれば金は白鳥家からいくらでも……そうだよ、クソむかつく金持ちの財産で贅沢できるんだよ、良い話だろ?」
「クソむかつく?」
「ああそうだ、あの白髪の女から聞いたぜ、お前親無しだろ? なら俺らの気持ち分かんだろ?
何も悪い事してねーのに、貧しくて不幸な一生を送る奴がいる一方で金持ちは生まれた時からなんの努力も犠牲も払わずに、ただ生まれた家が金持ってたっていうだけで、生まれてから死ぬまでなんの苦労もしないで俺ら庶民の上でのさばってやがる」
続くようにして鷹徒が、
「どいつもこいつも自分じゃ何もできないクセに自分が世界で一番偉くて正しくて、周りの人間が自分に従うの当たり前だと思い込んで、その事になんの疑いもしやしねえで、人が嫌がる事を笑ってやりやがる」
鷹徒の語りに、美羽達三人の顔が暗くなる。
「中には庶民派とかぬかす奴もいるが、どんなに普段庶民ぶったって、日本がどんな食料難になってもそいつらの分の食料は確保されてるし、自然災害が起こっても誰よりも優先的に身の安全を保障してもらえる。
庶民派なんて全部金持ちや権力達のイメージ戦略、いざとなったら自分の身が一番可愛い、それが金持ち連中だ」
鷹徒が語り終えると、美羽の目からは恐怖とは違う涙が流れた。
やはりそう思われていたと、白鳥家に生まれただけで自分はこうやって数え切れない人間達の恨みや妬みを買い続けるのだと……
逆に傷の男は哄笑して喜ぶ。
「なんだよ、お前もやっぱこっち側じゃねえかよ」
「俺もそう思っている時期があった」
その言葉で傷の男の笑いが止まった。
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