第47話 最強の執事


 その光景に、美羽と鶫は己が目を信じられなかった。


 戦いはあまりに一方的であった。


 そう、男達は武器と数の利がありながら、圧倒的過ぎる鷹徒の戦闘力に呑まれ、蹂躙され尽くしていた。


 一斉に銃や大型のナイフを取り出し、襲いかかってきた男達にあらゆる方向からナイフを振り下ろされ、突き出されても、鷹徒はその全てをかわし、敵を盾にして防ぐ。


 鷹徒の動きが止まる事は無く、まるで短距離走でもするように、常に最大速力を維持したまま動いた。


 それはその行動に見合ったスタミナを持っている証拠でもある。


 だが、鷹徒は拳を使っていない、手は開いたまま薙ぎ払うように振り、時には手刀を放つ。


 鷹徒に腕や肩を掴まれた男は投げられながらその部位の骨と筋肉を握り潰された。


「な、何もんだあいつ、あの動き、一体何やってやがる」


 恐れおののき一歩下がる傷の男の後ろで、雫結が呟く。


「流派なんてありません、ただのケンカです」


 それを聞いて鶫がハッとした。


「そ、そういえば沖之さん、狩羽君、昔からケンカ三昧(ざんまい)って言っていたけど、戦績はどうなの?」


 美羽と傷の男も注目する中、雫結は口を開いた。


「全勝無敗」


 三人の額から冷や汗が流れた。


「確かに、金属バットで袋叩きにされたり、かなり危険な時はあったけど、その時も結局は全員病院送りしてた、鷹徒くんがケンカしない日なんてわたしはほとんど知らない、でも鷹徒くんはどんな時でも今までの経験と生まれ持った握力と指の強さで小学生の時から例え大人相手でも負けた事なんて一度も無い、まして指(ツメ)を開放した鷹徒くんとマトモに戦える人なんて、木刀を持った鷲男くんだけだった」


「あの駄犬……そんな凄い奴だったの?」

「ケンカしない日が無いって、どれだけ戦ってるのよ……」


 途方も無い鷹徒の規模に美羽と鶫が驚いていると、不意に傷の男が口に手を当てた。


「狩羽、鷹徒、握力、ケンカ全勝無敗で今高校生……まさか!?」

「鷹徒くんの噂、聞いた事あるんですね」

「って、狩羽の噂ってどんなよ!?」


 鶫が叫ぶと、傷の男は頭を抱えて昔聞いた噂話を思い出す。


「前に聞いた事がある。握力計振り切る小学生がいるってな、お前が言った通り、一年中ケンカしてその全てに勝ち続けた無敗の王者、束ねた一組分のトランプを千切れる馬鹿げた握力にモノ言わせた戦い方でもしも拳を開いたら生きては帰れない《地上最強のケンカ師、狩羽(かりう)鷹徒(たかと)!》そして本人の名前と手にツメがついたような戦い方から手刀に手で払ったり握り締める行為が《鷹のクチバシ(イーグル・ビーク)》や《鷹の爪(イーグル・クロー)》なんて大袈裟な名前で呼ばれるぐらいだ、中学卒業してから姿を消したって聞いたからてっきり都市伝説の類(たぐい)だと思っていたが、まさかあいつがな……」


 鷹徒の化け物じみた力を傍観し、傷の男は諦めたように息を吐き出した。

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