第39話 さらわれたお嬢様


 間の抜けた声に鷹徒も違う意味でガクリとしながら雀を抱き上げた。


「にゅ~、疲れたよ~」

「あいつらはどうした!?」


 声を張り上げる鷹徒に、雀は締まりの無いまま顔で二台の車を指した。


「二台は止めたけどたゆたゆ達を乗せた車は逃げちゃった、役に立たなくてごめんね……」

「いや、雀は十分やったって」


 シュンとうな垂れる雀の頭を撫でて、後から鷲男と燕も追い付く。


「悪い、逃がしちまったけど雀が犯人の仲間の車を止めたぞ」


 それを聞いて、二人は全力疾走でそれぞれ別の車へ向かうと、中に乗っている人間を引きずり出そうとする。

 その間も肩口に顔をうずめて甘える雀のスカートを鷹徒はめくる。


「っで、これフォーティフォーマグナムだよな?」

「やーん、女の子のスカートめくるなんて、たっちゃんのえっちぃ、それにこれはフォーティフォーマグナムじゃなくて新作のフィフティフォーマグナムだもん」

「なんで口径がグレードアップした物持ってるんだよ……」

「たっちゃん、いい女にはヒミツが付きものだよ」


 イタズラっぽく笑う雀に鷹徒は嘆息を漏らす。


「そういう事にしておくよ、今はそんな事よか雫結達の事が心配だからな」


 言って、鷹徒は目に切れ味を持たせる。


「大丈夫だよ、あの車に乗っている連中からアジトの場所を吐かせれば――」

「大変だ!」


 鷲男の言葉に鷹徒と雀が駆けつけると、車内の男二人は既に命を絶っていた。


「二人とも身動きが取れない状態だったが、某が近づくと咄嗟に毒を飲んだ。敵ながら見事な手際であった」


 まさかと思い燕の方にも行ってみるが、結果は同じだった。


「おいおい、どうするんだよ……手掛かりなくなっちまったぞ……」


 顔が青ざめ、鷹徒は思わず一歩下がった。


 しかし、そんな中にあっても、燕はすこぶる冷静なままで、どこかに連絡を取っている。


「そうだ、この情報は絶対に漏らすな、とにかく情報漏洩に気を付けろ、お嬢様が誘拐された事を周囲に悟られるな」


 電話を切って、燕は鷹徒達に向き直る。


「学生の貴方がたを巻き込んで申し訳ありません、ご安心を、これは当家の問題ですので、後の事は我々でなんとかします、皆様はもう寮にお帰りください」


 だが、鷹徒は激昂して燕に詰め寄る。


「ちょっと待ってくれよ! 当家の問題!? こっちは仲間の雫結と鶫がさらわれてんだぞ! 関係ねえわけ無いだろ!」


 それでも燕は冷静なままである。


「言葉を返すようですが、貴方達は一高校生に過ぎない身、美羽お嬢様の救出には当家専属の部隊を使いますし、仮にそれが駄目でも貴方達ではなく警察に仕事を回します」


「んだと! じゃあ仲間が捕まったのに俺らには何もするなってのかよ!?」


「貴方達が何をしようと勝手ですが、我々の捜査への介入は認めません、これは子供の遊びではありません、ここからはプロフェッショナルの仕事です」


 言うと、燕は雀に一瞬だけ視線を送って、踵(きびす)を返して立ち去った。


「ちっくしょおおおおお!!」


 野次馬達が集まる中、鷹徒は涙を流しながら叫び、鷲男と雀は顔を伏せた。




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