第37話 執事VSテロリスト
と言って美羽は歩き出して、けたたましい金属の衝突音が咆哮を上げた。
その場の全ての人間が一点に注意を向ける。
原因は一瞬でわかった。
白い乗用車が美羽のリムジンに正面から激突してボディをひしゃげさせている。
中に人はいない、遠隔操作か自動操縦での犯行か、だが、事故で無い以上、犯人の狙いは明白だ。
気がついた時には、煙を噴出させた缶が美羽に向かって投げられていた。
間髪いれず物陰から黒いスーツを着た男達が現れて美羽の元へ向かう。
しかし、彼らは美羽の元へ辿り付く前に、否、物陰から出て行った直後に校門の前に、次々へ停まった車から一斉射撃が行われ、男達はその身を地に預けた。
咄嗟に鶫と雫結は美羽を庇うようにして抱き抱える。
周囲がスモークで埋め尽くされると、今度は周囲で爆音が響き、犯人の音は何も聞こえない。
鷹徒の耳には、美羽と鶫、そして雫結の悲鳴らしきモノは聞こえたが、それがどこから聞こえたのかまでは判別できない。
「くっそ!」
鷹徒は美羽達のいた場所に駆け込んで手探りで三人を探したが、視覚と聴覚のまったく利かない場所では上手くいかない。
鷹徒はすぐに目標を車に変更。
校門の外に出ると車を探すが、計三台の車は既に走り出していた。
三〇秒もかかっていない電撃戦、プロの犯行である。
車内にいた燕と鷲男は乗用車に激突された衝撃のため、鷹徒よりも反応が遅れ、リムジンから降りて状況を確認した時に、ようやく鷹徒と並んだ。
いくら鷹徒が健脚の持ち主だろうと、車に追いつけるはずがない。
それでも理論ではなく、反射的な行動として三人は車を追った。
急発進した車はすでに時速三〇キロを越えている。
もはやオリンピック選手でもない限りは追いつけない速さだ。
だから……視界の端をかすめた影に、鷹徒達は度肝を抜かれた。
車内にいた朝方雀が空を跳んでいた。
たった一度の跳躍は、オリンピック選手など足元にも及ばぬ速力と飛距離を持つ。
それでも犯人達の車までは届かない。
が、歩道側に停められていた無関係の車の上まで行くと、着地……などせずに、雀の体は全身の筋肉をフル稼働させてその車で自身の体を弾き飛ばす。
今度の速力は数瞬前の上をいく。
肉食動物のように強靭かつ瞬発力ある動作を以って飛翔する鳥類を思わせるほどの跳躍。
犯人の車の中にいた男が雀を見て表情を冷やした。
猛禽類のような眼光でこちらを射抜くメイドがスカートから軍で採用されていそうなごついナイフを取り出して両手に一本ずつ握り締める。
彼女の足は翼、手のナイフは鋭い爪。
朝方雀は背筋力を使って体を限界までひのらせると、今度は腹筋を総動員して上半身を振り下ろした。
金属が金属を貫く音に鷹徒達と犯人達の目が見開かれる。
身長僅か一四〇センチ、体重四〇キロ未満、小学生と大差ない体格の少女、朝方雀が時速五〇キロ以上で走る車のボディにナイフを突き刺し張り付いている。
犯人の車はさらにその速度を上げるが雀は剥がれないどころか窓へとにじり寄っている。
だが犯人はやはりプロなのだろう。
雀への油断も甘さも一切無い。
曲がり角に入ると、慣性の法則で車が傾くほどの急カーブをかけながら車内から雀の顔面に向けて発砲。
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