第31話 ひとりぼっちのお嬢様
冷房設備のおかげで涼しい部屋が、夏の強い日差しでカーテン越し照らされる。
その中で、キングサイズのベッドに横たわる白鳥(しらとり)美羽(みう)は天井を見上げたまま、起きようとはしなかった。
今、彼女の頭を支配しているのは、先週の記憶だった。
自分がもっとも信頼する専属使用人、渡鳥(わたりどり)燕(つばめ)の妹、渡鳥(わたりどり)鶫(つぐみ)。
彼女の性格を考えれば、主人の命令を最優先事項にするだろうと、美羽はそう考えていたのだ。
だが、先週の金曜日、彼女は同じ班員の沖之雫結(おきのたゆう)のために、自らの成績を犠牲にしてまで逃げたペットの捜索をした。
それは他の班員、大空(おおぞら)鷲男(わしお)と朝方(あさがた)雀(すずめ)、そしてあの男、狩羽(かりう)鷹徒(たかと)も同じである。
鷹徒は腕をケガしていた。
ケガをしてでも雫結のために逃げ出した犬を探し続けた理由、そして怒りを必死に押さえ込み土下座をした理由、それは単純に、雫結が大切な幼馴染だから。
仲間のため? 友のため? 幼馴染のため? なんの報酬も無いのに自分を犠牲にして? どうして?
美羽には理解できなかった。
無償で誰かに尽くす人間……それは、美羽が欲しても手に入らないモノ、いくら金があろうと手に入らない。
否、金を積んでは意味が無いモノなのだ。
鷹徒の顔を消して、愛する父の顔を思い出す。
「パパは……アタシを愛しているよね……」
弱々しい独白が終わると、部屋のドアがノックされて、メイド達が入室してくる。
朝の挨拶をされてから美羽は上体を起こし、やってきたのが専属使用人の燕でない事を確認した。
「燕は?」
「はい、燕様は所用で本日は昼からの仕事になります」
「ああ、そういえばそんな事言ってたわね……」
美羽が目をこする間にカーテンを開けると、メイド達は着替えと目覚めの紅茶(アーリーモーニングティー)の用意を始めた。
美羽がベッドから出て、ネグリジェを脱がされると呟いた。
「ねえ、アンタ達はなんでアタシに仕えているの?」
メイド達は「えっ?」と言って固まる。
困惑してから、
「そ、それは勿論、私達が白鳥財閥に雇われている使用人で、当主である白鳥(しらとり)高爪(こうさい)様の命令で美羽様が所有するこの屋敷に配属されているからですよ」
「じゃあ、パパが命令したらこの屋敷を出て行くの?」
メイド達は言葉に困る。
「アタシが白鳥家の人間じゃなかったら、アンタ達はアタシにどう接するのかしら?」
お互いの顔を見合わせたり、目を泳がせるメイド達はとうとう答えられず、美羽の顔は不機嫌になっていく。
「そ、そんな事よりもお嬢様、本日は久しぶりに大旦那様とディナーを召し上がれますよ」
その言葉に美羽はパッと顔を明るくさせて顔を上げた。
「本当!?」
「ええ、大旦那様も楽しみにしておりますよ」
「燕様も、お嬢様が今夜着るドレスの選択にはかなり力を入れているご様子でした」
「そっかー、パパと今夜、うんいいわ、ふふ、楽しみぃー」
先の質問の返答を忘れた様子の美羽を見て、メイド達は胸を撫で下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます