第28話 ツンデレメイドかな?
「狩羽!!」
突然襲い掛かった怒号に全員がその方向を見て驚いた。
「姉さん、この子を」
ドーベルマンを連れた鶫が息を切らしながら歩いて来る。
燕にリードを手渡して美羽へ向き直る。
「仕事を投げ出し連れてきましたので、お嬢様の出した条件通り、今日の成績からどうぞお引きください」
呆気にとられて美羽が言葉を失っていると、燕も美羽のほうを向いて声をかける。
「お嬢様」
「え? あっ……鶫、広い街中で、よく見つけたわね」
鶫は小さく笑って返す。
「見つけたのは私ではありません、私が大空君と一緒に街中を探していたら、急に朝方さんから見つけたとの連絡がありまして」
「それで、鉄仮面とチビっ子は?」
「実はその事なんですが、正直に申し上げますとこの子がいた場所には多くの不埒者がいまして……」
「まさかそいつらにやられたとか?」
「いえ、大空君一人で見事鎮圧したのですがその後歩道にバイクが突っ込んできて……」
「そういうことね」
「はい、相手が重症だったので大空君が運転手を背負って近くの病院まで、朝方さんはその付き添いに」
「なんで相手が重症なのよ!?」
「うちの者は変に頑丈でして」
「なんて非常識な奴なの……」
意識が鷹徒から鶫へ向き、今の会話で完全に毒気を抜かれた美羽へ、狙い済ましたように燕が問い掛ける。
「時間には間に合いませんでしたが、逃げ出した犬は全て戻ってきました、沖之さんの処遇に変更はありませんか?」
「っ……」
視線を鷹徒、雫結、鶫の順に向け、雫結を今一度睨む。
「う~」
と唸り声を上げて目に涙を溜めると、見た目どおり子供っぽく頬を膨らませて、美羽は泣き叫んだ。
「チチ揺らしてばっかいないで来週からはちゃんと働きなさいよ! このチチだけ娘!」
振り返り、ずんずんと歩いてまた叫ぶ。
「燕! 部屋にミルクティー持ってきなさい!」
「はい、お嬢様」
言って、美羽と一緒に燕は屋敷の中に戻り、ドアを閉める直前に鷹徒達を振り向き、僅かに口元を緩めた。
ドアが閉まると、鷹徒と雫結はすぐに立ち上がって鶫に礼を言う。
「悪いな鶫、でも助かった」
「本当に、ありがとう……わたしなんかのために……」
二人に礼を言われて、鶫は一瞬はにかんで、すぐに顔を背けた。
「別に礼なんかいらないわ、ただ、私が班長の班で退学者が出るなんて事になったら私の経歴に傷がつくから仕方なくやっただけよ!」
「でもわたしのせいで鶫さんの成績が……」
「バカにしないで、今日一日の成績が悪いくらいで私の成績には何の支障も無いわ! いいこと、私は貴方達みたいな人とは普段から取っている点が違うのよ!」
「素直じゃねーの」
鶫の目尻が上がり、鷹徒に視線を突き刺す。
「狩羽、あんたちょっと目をつぶりなさい」
「なんだよ一体」
言われて目をつぶった瞬間に、
「アホぉおおお!」
鶫の右フックが鷹徒の横っ面を殴打し、鷹徒はその場に倒れ伏す。
さらに、鶫は馬乗りになり、マウントポジションを確保すると猛烈な勢いで鷹徒の顔を殴り始める。
「あんたさっきなんて言おうとした? 夏休みの補習受けるですって!? バカな事言ってんじゃないわよ! あんたはどこまで私の人生設計狂わせれば気が済むの!? だからあんたはバカだしお嬢様に駄犬なんて言われるのよ! 少しは冷静な判断をしなさい!」
「あ、あの鶫さん、鷹徒くんが……」
雫結の言葉など右から左へ抜けていく。
「なんであんたはそう班長の言うことが聞けないの!? あんた執事目指しているんでしょ!? だったらそれらしくしなさいよ! 言っておくけどね、私の班にいる以上は、勝手な事は絶対に許さないんだからね!!」
最後に振り下ろされたハンマーフックを顔面に叩き込んで、鶫は攻撃をやめた。
「はぁ はぁ はぁ 分かったら、来週で最後なんだから、ちゃんと私の言う通りに……」
「つ、鶫さん……」
「んっ?」
鶫が雫結に指差される鷹徒の顔をよく見て、その凄惨な光景に絶句した。
「だ、大丈夫狩羽!? ごめんなさい私ったらつい」
「きゅっ、救急車救急車ー!」
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