第25話 巨乳メイドは水泳が得意?
三〇分後、鷹徒と雫結は石橋の上で大きなため息を吐き出した。
もうすぐタイムリミットだというのに、あれから一匹も見つかっていないのだ。
「もしかして、凄く遠くに行っちゃったのかな……」
「まだ分からないだろ、なんとかして見つけないと、お前退学なんだぞ」
「でも……」
「まあ、確かに厳しくなってきてるのは事実だけどよう」
鷹徒は石橋の端に寄りかかって下の川を眺めた。
ゴミは浮かんでおらず、都会にしてはかなりキレイな川である。
「やれやれ、漫画みたいに犬の入った箱が流れてきたりしねーのかよ」
チワワの入った箱が橋の下を通過した。
「いくらなんでも、それは都合良すぎるよ」
チワワの入った箱が遠ざかって行く。
「そうだよな、そんな事あるわけないよな」
「そうだよ、そんな事あるわけないよ」
「「…………」」
チワワの入った箱がさらに遠くへ……
「「いたぁあああああ!!!」」
同時に叫んで、鷹徒はなんの躊躇いも無く川に飛び込んだ。
鷹徒は体にまとまわりつく燕尾服に抗いながら泳ぎ、チワワに追いつくとその箱を抱える。
「よし、後は岸に……ッ!」
アスファルトの上を走り追いかける雫結の目の前で、急に鷹徒の動きが鈍り、少しも岸に近づかずに流されて行く。
「鷹徒くん!」
服という物は、普通人が考える以上に濡れると肌に吸い付く。
人間が泳げるのは、あくまでも水着という水泳専用の装備をしているからであり、そうでない衣服を身に付けると、それだけで凡人はカナヅチに、泳ぎの上手い者でもその泳力は確実に激減するのだ。
まして運動用でない格式ばった燕尾服ともなれば、その拘束力は計り知れない。
今まで体験した事のない抑制を受けた筋肉の長時間使用に、鷹徒の足は筋肉痙攣を引き起こしたのだ。
なんとかチワワの入った箱を浮きにして助かってはいるが、このままではどこまで流されるか分かったものではない。
その時、雫結の体は、自然と川へと落ちていった。
「鷹徒くん!」
メイド服が水に浸り、雫結の体に吸着する。
彼女の服は、体育の成績万年ビリの雫結の身体能力をさらに下げた、はずだった……
「!!」
だが、鷹徒は己の目を疑った。
雫結は泳いでいた。
両手を大きく広げ、水を掻き分ける度に上半身は大きく浮き上がり水から抜け出す。
バタフライ、スピード泳法の一種であると同時に高度な技術を必要とする上級技であるはずのソレを、雫結はなんなく使いこなし、かつ普通では考えられない速度で進行している。
大きく腕を広げて泳ぐ雫結は、泳ぐというよりも、空を飛ぶ鳥のように見えた。
そのまま鷹徒へ追いつくと左手で鷹徒を抱え、右手だけで泳ぎ、岸へついた。
雫結に鷹徒を引き上げる筋力があるはずもないので、まずは鷹徒が雫結に体を支えられた状態で抱えたチワワ入りの箱を岸に上げてから、腕力だけで自らも上がり、最後に雫結も上がるという順で、鷹徒達は見事川から脱出した。
息を切らしながら、鷹徒は問うた。
「てか、ハァ ハァ お前確か泳げないんじゃなかったか?」
雫結も息を切らしながら答える。
「ふぅ ふぅ ううん、ごめん、あれ嘘なんだ」
「はぁ? じゃあなんでお前中学の時、ずっと水泳の時間休んでたんだよ? 確か俺には泳げないのが恥ずかしいからって言ってたよな?」
「そ、それは……」
雫結は急に顔を赤らめると両腕で胸元を隠した。
「恥ずかしかったから……」
「はい?」
「だから……本当は、水着姿になったら、胸が目立っちゃうから……みんなに見られたくなくって……それで……」
それを聞いて、鷹徒も顔を紅潮させて、目を反らした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます