第22話 ヤクザかな?

「ぬおりゃああああ!!」


 鷹徒と雫結が公園に向かうと、そこで毛並みの美しい犬が汚い野犬達に囲まれている光景を発見。


 鷹徒は全力疾走で間合いを詰めて、その勢いを十二分に発揮したまま一匹の犬を蹴り飛ばした。


 放物線を描いて飛んだ野犬は気絶した。


 それでもまだ野犬は三匹残っている。



 毛並みの綺麗な犬は迷わず鷹徒の背後に隠れ、野犬達は鷹徒に吠え掛かるが……


「テメェら狩られてぇのか?」


 鷹徒が一〇本の指をかざして殺意を込めた眼光で野犬を射抜く。


 そのあまりの迫力に、野犬達は鷹徒の背後に血に飢えクチバシを鳴らす鷹(たか)を感じ取り、「キャウン」と情けない声を上げて一目散に逃げ出した。


 さすがは野生の生命力といったところか、最初に蹴り飛ばした犬はもう意識を取り戻すと仲間の犬達と共に走り去った。


「よし、こいつもあのガキの犬だな、これで二匹目だ」


 携帯電話の画像と首輪を確認して、鷹徒は満足げに笑う。


「あ、相変らず凄い威力だね……」

「ははは、ダテに五歳の時からケンカ漬けの毎日送ってねえよ、おっ、あそこにいるのも確か画像にあったな」


 鷹徒の視線の先、公園の噴水の近くには高級感溢れる黒い犬が別の白い犬と対峙し、牙を剥き出して唸り声を上げていた。


「よし、あいつも助けてささっと回収すっか」


 などと言っているが、鷹徒はその対峙している犬が汚い野犬ではなく、これまた気品の溢れ、さらに……


「待って鷹徒くん、その犬首輪――」


 雫結の言葉など耳に入れず走りながら鷹徒は白い犬を蹴り飛ばす。


「よし、金縁の白い首輪してるぞこいつ、三匹目も保護したし、なんか順調に――」


 背後の足音に鷹徒は気付き振り向いた。


 そこにいたのは、たった今蹴り飛ばした犬を抱き抱えた男を中心とした五人組みの集団だった。


 流石に鷹徒もそれが野良犬ではなく、飼い犬である事に気付いてマズイと思うが、一番の問題はその飼い主であった。


 縦縞(たてじま)のスーツや黒スーツに白スーツ、髪型は剃り込みやスキンヘッドにポマードで撫で付けたオールバック、サングラスをかけている男や顔に傷跡のある男、さらには葉巻をくわえた男など……言ってしまえば、白い粉などを販売していそうな方達だった。


 鷹徒の額から一筋の汗が流れ落ちて、犬を抱き抱えた男が凄味を利かせた目で睨んでくる。


「テメエ、どこの執事かしらねえが、ウチのベティちゃん蹴り飛ばして……」


 男の右手にあった葉巻が地面に落ちた。


「生きて帰れると思ってんじゃねえだろうなぁ!!! ああん!?」


 後ろの四人の男達も眉間にシワを寄せて、鷹徒は美羽の犬を抱えると一瞬で逃げ出した。


「「待たんかこのクソガキーーー!」」

「「ブッ殺すぞテメエ!」」

「ベティちゃんの仇ー!」

「なんでこうなるんだぁーー!!」


 男達に追われながら、鷹徒は悲鳴を上げて雫結の視界から遠ざかっていった。


「ま、待ってよう、鷹徒くぅーん」


 犬達を引きながら必死に追いかけるが、雫結の足で追いつけるわけもなく、鷹徒は小さな点になって消えた。



   ◆



 二〇分後、雫結は携帯電話で連絡を取り、橋の上で二匹の犬を連れた鷹徒と合流、その犬のリードも持ち、ホッとする。


「よかった、鷹徒くん無事だったんだね」

「おう、それに途中でまた一匹見つけたし、結果オーライだな」

「……うん」


 せっかく順調に犬が見つかっているにもかかわらず、雫結の表情は暗く鳴る。


「んっ、どうかしたか雫結?」

「うん……なんかわたし、本当に役立たずだなって思って、結局四匹とも鷹徒くんが見つけたわけだしさ……逃がしちゃったの、わたしなのに……」


 暗いオ―ラに包まれる雫結に、鷹徒はしばし考えを巡らせて、


「そうだ、ここは適材適所って事でよ、あんま犬連れてると動きにくいだろ? 俺はこのまま残りの犬っころ探してっから雫結は一度その犬、屋敷に戻してきてくれよ、頼めるよな?」


 そう言われて、雫結の顔に僅かな明るさが戻る。


「うん」

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