第17話 ロリの部屋


 朝方(あさがた)雀(すずめ)の部屋……


 ファンシーの一言に尽きた。


 部屋中を飾るヌイグルミ達にキャラ物の小物やポスター、可愛らしい動物のシールがベタベタと張られた机、女の子らしいというよりも幼稚っぽいと言ったほうが正しいだろう。


 極めつけはベッドの上に乗っている雀自身と同じ大きさの巨大テディベアである。


「なんか、これはこれで予想通り過ぎてつまんないわねー」


 言いながら美羽が壁に取り付けられた棚の戸を開くと、中にはお子様向けの可愛い日用品で溢れている。


 だが、鷹徒は美羽が戸を閉めると、中から何かが擦れる音がするのを聞いた。


「ねえチビっ子、アンタどんな服持ってるのよ」

「可愛いのいっぱい持ってるよ、見るー?」


 お子様同士でクローゼットを漁りながら談笑しているのを確認してから、鷹徒は先程の棚をもう一度開け、銃火器、一瞬でまた閉める。


(落ち着け鷹徒、今のは戸の開け方が悪かったんだ)


 息を整えてまた開けると、やはり日用品があり、もう一度閉めるとまた中から音がして開け直すと……


 鷹徒達の顔が固まった。


 ナイフ、銃火器、弾薬、手榴弾、その他諸々(もろもろ)のスパイ映画に出てきそうな道具達とどこの国の字かも分からない文字で書かれた書類の束、鷹徒はゆっくりと戸を閉めてから、雫結達にグッと親指を立てた。


「き、きっとコスプレグッズだって……」


 それで雫結達も無理矢理頷いた……



   ◆



 渡鳥(わたりどり)鶫(つぐみ)の部屋……


 行き届いた清掃、片付けられ、一切の乱れの無い部屋は、鶫の几帳面さを現すように鷹徒達を迎え入れた。


「へー、今までで一番マトモな部屋ね」


 眺め回しながら美羽は机に近づいて無断で引き出しを開ける。


「何これ、うさぎ?」


 美羽はガラスの小物を取り出すと目の前にかざす。

 すると持ち方が悪かったのか、ガラスのウサギは美羽の手から落ちて転がった。


「おっとっと」


 すぐに拾おうとして、一歩踏み出したがそれがまずかった。


 球状でないウサギの小物は突然その動きを止めて美羽の予想よりも遠くへ行かなかったために……


 バキ、と音が美羽の足元で鳴った。


 美羽が足をどければそこには耳の部分がボキリとへし折れたガラスのウサギがいた。


「壊れちゃったわね、まあいいわ、アタシが新しいの買ってあげる、鶫、これはどこのメーカーのものかしら?」


 悪びれる様子も無く尋ねられて、鶫には珍しく即答せず、ワンテンポおいてから鶫は被りを振った。


「いえ、実はソレ、捨てようと思っていた物なんです、ですから何も気にする事はありません」


 鶫は床に落ちた破片を拾うとそれを鷹徒に手渡した。


「狩羽、悪いけどコレ、捨てといてくれる?」

「……おう」

「あらそうだったの、じゃ、これで全員の部屋は見たわね、燕、屋敷に戻るわよ」

「ハイ、お嬢様」


 美羽達はまた、ぞろぞろと連れ立って部屋を出て行く。


 その中で、鷹徒だけは手渡されたウサギの破片を見ながら、鶫の遅れた返答を思い出していた。



   ◆


 鷹徒達の部屋を見ていたせいで今日の美羽が自由にできる時間は終わったらしく、今日の鷹徒達は美羽の屋敷で清掃作業をする事になった。


 今までのように美羽のワガママに付き合わされるのと違い、アカデミーで練習した雑務を行うのは比較的楽な作業ではあった。


 だが、鷹徒は何か納得できない表情を崩せずにいた。


「狩羽、ここが最後の部屋よ、今日はお嬢様がいないんだから、言い訳無しよ!」

「……分かってるよ」


 鷹徒は窓を拭き、その背後で鶫が掃除機をかけ続ける。

鷹徒が口を開いたのは、その途中だった。


「なあ鶫……」

「何?」

「なんでお前そんなに忠実なんだよ?」

「お嬢様に? そんなの私が大メイド長を目指しているからに決まっているでしょ、忠誠心の欠片も無い貴方がおかしいのよ」

「だからなんでメイド目指してるんだよ?」


「なんで? そんなの私が渡鳥家の人間だからに決まっているじゃない、前にも説明したでしょ? 私の両親も祖父母も、渡鳥家の人間は代々白鳥家に仕えてきたの、私と姉さんだって幼い頃から親に将来は使用人になるよう言われてきたし、それに相応しい教育だって受けてきたわ」


「じゃあよう」


 鷹徒の手が止まる。


「親に言われなかったらメイド目指してなかったのか?」


 鶫の手も止まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る