第16話 女子部屋チェック

 沖之雫結(おきのたゆう)の部屋……


「なんか特徴の無い部屋ねえ」


 特別コレといった物があるわけではないが、雫結の部屋は雰囲気で女子の部屋と感じ取れるだけで、美羽の言うとおり特徴の無い平凡な部屋だった。


「燕、これって庶民の平均?」

「はい、平均の模範かと」


 ちょっとした小物や机の上のノートやクリアファイルなどから僅かに女子の気配がするだけの空間。


 面白味ゼロ、大丈夫、自分の部屋はスルーしてくれるはずだと、雫結が自分に言い聞かせている途中で美羽はなんの躊躇いも無くタンスを開けた。


「ああッ、待って一番下はっ――」


 時既に遅し、美羽はもう隣のベッドの上へ次々と三角形の白い布キレを放り投げている。


 現物を見て、鷹徒は顔を紅潮させ、鷲男は無反応である。


「何これ、白いのばっかじゃない、変わり映えしないわね……」

「まま待って、お願いだがからもうやめっ――」


 雫結が言いかけてる間に美羽はある物を発見、頭を悩ませる。


「んっ、なんで帽子が下着と一緒に入ってんのよ、でもこれ繋がって、帽子じゃないなら何?」


 雫結の脳内でネズミ花火が暴れ周る。

 美羽をタンスから引き剥がそうとするが非力すぎる上にパニック状態の雫結では小学生の女の子をどうにかする事すらできない。

 美羽は美羽で、自分を抱える雫結が肩に乗せてくる質量でハタと気付いて声を張り上げる。


「あんたこれ、ブラじゃないの! アンタどんだけデカイの着けてんのよ!? アタシはメロンケースか何かかと思ったわ!」


 みんなにも見えるよう頭上で大きく広げられて、雫結の脳内で手榴弾が爆発した。


「しまって、いいからしまってください!」


 ちなみに、鷲男は既に鶫と燕の手によって外に放り出されている。


 言いながらベッドの上にも投げられた下着を思い出し、美羽が散らばした下着を全て回収して最後に美羽が持つ下着を取り返そうとするが美羽は右へ左へと華麗にかわして……


「もう我慢ならねえ! 雫結が嫌がってんじゃねえか!」


 額に血管を浮かべた鷹徒が美羽を抱えると、あとはお約束の展開しか待っていなかった。


「ちょっと何触ってんのよエッチ! アンタごときがこのアタシに触れていいと思ってるの!?」


 鷹徒が無理矢理タンスから引き離そうとして、美羽は下着を入れている引き出しを掴んで抵抗した。


「後でいくらでも謝るからとにかく今はここから離れ――」

「きゃっ!」


 結果、タンスの段がすっぽ抜け、鷹徒は後ろへ大きく倒れる。


 鷹徒の腕が離れた美羽はその場に尻餅をついて、手に持っていた物は美しい放物線を描いて後ろへと飛び。


「あ………………」


 雫結の目の前を、タンスの引き出しが上下逆の状態で通り過ぎる。

 タンスの引き出しは鷹徒の脳天に激突したのに、バフッ、と音をたてた。


「なんだ?」


 頭に被った引き出しをよけて、鷹徒は自分の状況を確認した。


「ながッ!!?」


 鷹徒が何を浴びて、何に囲まれ、肩や頭の胴体部に何を乗せているかは説明するまでも無いだろう。


 雫結もまるで生爪を剥がされたような悲鳴を上げ、脳内が炎上。


 一気に大量の脳細胞が死滅したような感覚に襲われて頭から煙が出そうなほど赤面した。


 鷹徒の中で小人達が心臓に容赦なき薪(たきぎ)をくべ、体中の血圧が上がった。


「ここ、これ……は……」

「眠れ!!」


 思わずその一枚を摘み上げた鷹徒の顔面にサッカー団体から契約の依頼が来てもおかしくない強烈な蹴りがブチ込まれて、鷹徒は下着の海に沈んだ。



   ◆



「おい鶫……」


 顔面にガッツリと足の跡を残した鷹徒は廊下を歩きながら鶫を睨み蹴り跡を指差した。


「いくらなんでもこれはやりすぎじゃねえのか?」

「うるさいわね、女の子の下着にあんな事して、本当は記憶がなくなるまで蹴ってもいいのよ」

「あれは事故だろ!」

「二人とも、一体部屋で何があったのだ?」

「あんたは知らなくていいの!」


 鶫のハイキックが鷲男の顔面にクリーンヒット、の直後に燕が慌てて鶫のスカートを抑える。


「鶫、スカート蹴りはやめたほうがいいわ」


 途端に鶫は顔を赤くして鷹徒の顔も蹴り飛ばした。


「なんで俺まで!?」


 そんな騒ぎを起こしている後ろでは雀が雫結に絡んでいた。


「いーな、いーな、おっぱい大きくていいなー」

「あうぅ、大きくて良い事なんて何もないよぅ……」

「チッ!」


 舌打ちをした美羽にキッと睨まれ、雫結は一瞬足を止めた。


「うぅ……そういえば鶫さん、なんで鷹徒くんも外に行かせてくれなかったの?」


 雫結に言われて、鶫は僅かに体を硬直させると背を向けたまま振り向こうとしない。


「だ、だって、私はてっきり、隠しているだけで、貴方達はその……そういう関係だと思ったから、でも沖之さんが悲鳴を上げるから付き合ってないってのが本当だってわかって……それで……」


 燕も額を抑えて続く。


「恥ずかしながら、私も狩羽君の鈍感さに呆れながら、疑惑の目を向けていましたが……まさか本当に……」

「んっ? 俺のどこらへんが鈍感なんだ?」

「くたばりなさい!」


 早くも鶫の蹴り跡とダメージを回復させた鷹徒の顔に鶫の右ストレートが打ち込まれた。


(俺が……俺が何をしたっていうんだ……)


 その身を重力に預けながら、鷹徒は心の中で嘆いた。

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