第15話 お嬢様の、使用人部屋チェーック!
狩羽(かりう)鷹徒(たかと)の部屋……
部屋を開けた途端、まず最初に空気の埃っぽさに美羽と鶫が顔をしかめた。
左側に風呂とトイレに繋がるドアのある廊下を抜け、部屋へのドアを開く。
入った時から「狭い」とか「暗い」とか文句を言っていた美羽がその惨状を見ると、小さな悲鳴を漏らした。
「なにこれ~」
汚い、この一言で全てが理解できる。
脱ぎ散らかした服や靴下。
埃っぽい空気同様に埃の溜まったテーブルと棚。
あまりにもベタ過ぎる男の一人暮らしを彷彿とさせる部屋の様子であった。
「何ここ、汚い以前に狭過ぎじゃない、本当にここに人間が住めるの?」
「お嬢様、下流庶民の家は皆この程度の広さなのですよ」
「信じられない世界ね」
鷹徒の部屋を眺めて、やたらと驚く美羽の横を雫結が通り過ぎて、
「もう、わたしがいないとすぐに散らかすんだから……」
言いながらテキパキと鷹徒の部屋を片付ける雫結。
その姿からは普段のトロさは感じられず、やたらと慣れた手付きで既にプロのメイドと変わらぬ動きを見せる。
「待って沖之さん、わたしがいないとって、貴方もしかしていつも来ているの?」
鶫に聞かれて雫結は手を止めて赤面しうつむいた。
「ああ、雫結は毎週金曜日になると俺の部屋に掃除と飯作りに来てくれるんだよ、それから土日も晩飯作りにきてくれるな」
全員の顔が固まり、
「ほんとこいつ友達思いでよう、幼馴染だからってそこまでやってくれなくてもいんだけど雫結がどうしてもって言うんだよ」
(そこまでやられて気付かないのか!!!?×五)
またも鷹徒と雫結を覗いた全員の心がシンクロした瞬間であった。
幼馴染のメイドに身の回りの世話をしてもらう。
これだけ聞くとまるで漫画のような展開に思えるだろう。
だが、残念な事にここは使用人養成学校、サーヴァントアカデミーである。
男子の制服は執事の燕尾服(えんびふく)、女子の制服はメイド服、学校中が執事とメイドだらけであり、この部屋にもドレス姿の美羽を覗けば後は全員執事姿とメイド姿が三人ずついる。
そのうえ、その世話をしてもらっている鷹徒自身も執事の格好をしており執事を目指しているのだから、せっかくのラブコメ展開も魅力半減である。
「ああもう、こんな部屋にいたら気が狂うわ、次行くわよ次!」
美羽に合わせて皆移動し、思わず掃除を始めてしまった雫結も慌てて後を追う。
◆
大空(おおぞら)鷲男(わしお)の部屋……
「何これ?」
美羽の第一声には全員が納得した。
部屋そのものの清掃は完璧だが、部屋の様式が鷹徒のそれとは大分違う。
「はっ、アカデミーの寮には洋室と和室があり、某は和室を所望したのです」
「いや……でもこれは……」
和式の部屋の壁には《根性》とか《武士道》と書かれた書初(かきぞ)めや木刀、刀が飾ってあった。
「変わった物が多いわねえ」
珍しそうにダルマやコケシを手に取り、最後に神棚(かみだな)を眺めて興味が無くなったのか、美羽はすぐに出口に戻った。
「ほら男子共、次はお待ちかねの女子寮に行くわよ」
「俺、女子寮ならよく雫結の部屋に行くぞ」
鷹徒の言葉に全員が鷹徒を振り向いた。
(こいつ頭大丈夫か!?×五)
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