第9話 ロリメイド


「そう、それで、そっちのチビっ子は?」

「むぅ、美羽ちゃんのほうがちっちゃいじゃん! あたしは朝方雀、専攻は護衛だよ」

「護衛?」

「うん、護衛!」


 小さな胸を精一杯張って言い切る雀に美羽が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「アンタみたいなチビが何をどう守るんだか……」

「なにおう!」

「だからおめーはさっきから……」

「じゃあ最後に、もう知ってる顔だけど……」


 最後の一人となった鶫は蹴り倒した鷹徒と雀を足元に転がしたまま丁寧に頭を下げた。


「使用人養成学校、サーヴァントアカデミー一年A組、渡鳥家本家の次女、渡鳥(わたりどり)鶫(つぐみ)と申します。

専門教科は調理課程を履修しておりまして、アカデミー卒業後は姉の燕共々この家でご奉仕させて頂きたく思います」


 鷹徒や雀とは一線を画したその所作の美しさに思わず感嘆の声を漏らして、美羽はようやく顔に普段の表情を取り戻した。


「へえ、さすがは渡鳥家といったところね」

「ええ、私の自慢の妹です」


 そう言って、燕は鷹徒達のほうに向き直り告げる。


「では、これから二週間、学校が終わった後の午後二時から六時までの四時間、貴方達は使用人達の仕事を監察、実施し、使用人たちからの評価を――」

「待って、燕」


 燕の言葉を切り、美羽はイタズラっぽく笑い、鷹徒達を眺め回す」


「履修するかが自由な専門課程を全員履修してるなんて中々ヤル気のある班じゃない、ねえ燕、確かこの試験て試験内容はその家で決めてよかった筈よね?」

「ええ、ですから私なりにこの者達の使用人としての素質、力量を見極める方法を――」


「いいわ、じゃあアンタ達の評価はアタシが直々にしてあげるわ」


 美羽の出した結論に驚きの声を上げたのは燕ではなく鶫だった。


「待ってくださいお嬢様、そのような事を頭首である高爪様の愛娘にしていただくわけには――」

「いいから、アタシがそう決めたんだからいいでしょ、さあ、そうなるとアナタ達には何をしてもらいましょうか……」


 アゴに手を当てて、上げた視線がすぐに戻ってくる。


「ふふ、決まったわ、燕、車」

「かしこまりました、お嬢様」


 主(あるじ)に会釈をして、燕は車のキーを取り出した。



 鷹徒達が案内されたのは巨大な地下駐車場だった。

一目でソレと解る高級車の数々に、鷹徒と雫結は深く考えるのはやめにした。


「ウチの技師がここの電気系統の調子が悪いって言ってたの思い出してね、鷲男、アンタ確か技師課程履修してたわね、今日中に修理なさい、言っておくけど、手袋の貸し出しはしないからせいぜい気をつけてね」


 一瞬、鷹徒達の顔が引きつった。


「は、ご命令とあらばやりますが、まだ日が浅いので満足いく成果を出せるかどうか……」

「別にできないならできないで構わないわ、その代わりサボっちゃ駄目よ」


 明らかに何かを企んだ顔で笑う美羽の横を通り過ぎて、


「では早速」


 と言って、配電盤を開けて作業に取り掛かった瞬間。


「!」


 鷲男の体が硬直後に痙攣、そしてバタンと倒れる。


 思ったとおり、鷲男は感電した。


 プロならば上手く電気の流れていない所だけを触って修理できるが、まだ一年生の鷲男にそこまでの技量など望むべくも無いのだ。


「あはは、おっもしろーい、じゃ、次いくわよ」


 愉快に笑いながら美羽はUターンして、背後では立ち上がった鷲男が再びチャレンジしてはまた感電している。


「おい待――」


 また鷹徒が反論しようとして、鶫に今度は裏拳で喉元を殴られる。


 美羽が自分達に背を向けている事を確認してから鶫は鷹徒のむなぐらを掴み引き寄せて囁く。


「わかっているの貴方? ここでの評価は私達の一学期の成績に繋がるのよ、それをあんたがいちいちチンピラみたいにケンカ売ってたら試験が終わる前に落第決定よ!

 いい? あっちは財閥のお嬢様でこっちは使用人見習いですらない学生なの、貴方も子供じゃないんだから少しは社会の身分の差や我慢というものを学習しなさい!」


 小声ながらドスの利いた声に鷹徒もやや気圧され、だまって頷く。


「何やってんのよ、さっさといくわよ!」


 美羽の呼びかけに鶫は営業スマイルで振り向いた。


「申し訳ありません、ただいま参ります」


 置き土産とばかりに、鶫は肩越しに鷹徒を見ると一言、


「騒ぎなんか起こすんじゃないわよ」


 鷹徒は舌打ちをして、


「わかったよ」


 と言って車に向かった。


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