第7話 お仕えするのはドリルお嬢様!
華やかな、美しい庭の先にそびえ建つ荘厳な屋敷、その扉の前で佇む一人の少女。
彼女は今しがた停止したリムジンから鷹徒達が降りてくるとニヤリと笑った。
「お嬢様、何故このようなところに、私が呼ぶまで部屋で待っているように言ったはずでしょう……」
「何言ってるのよ、このあたしに仕える連中がどんな奴らか気になって部屋なんかにいられないわ」
「どうしたんすか燕さん?」
「紹介が遅れましたね」
鷹徒達が少女の前に集まると燕は少女の横に立ち彼女に手をかざす。
「こちらは白鳥財閥第十八代目頭首、白鳥高爪(しらとりこうさい)様の四女、白鳥美羽様です」
その言葉にまたも鷹徒と雫結の二人だけが驚いた。
小学生にしか見えない幼い容姿、名字通りに白いドレスを着て、顔には長いまつ毛に縁取られた大きな瞳、手入れの行き届いた髪は漫画でしか見た事が無いような……
(ドリルヘアーってマジで見るとスゲーな……)
鷹徒の隣で雫結も、
(あれってセットするのに何時間かかってるんだろ……)
の隣で雀は、
(あのドリルに手、入れたら駄目かな)
などと同次元の事を考えていた。
「お久しぶりです美羽様、本日もすばらしいお召し物ですね」
鶫の誉め言葉に美羽は解り易い笑顔を作って自慢げに語り出す。
「わかるぅ? これねぇ、パパがアタシの新学期祝いに買ってくれたドレスでね、ワタシのためにわざわざオーダーメイドで作らせて」
などと語っている間も、鷹徒、雫結、雀の頭の中はドリルでいっぱいである。
(あんな髪型で恥ずかしくねえのか?)
(お風呂に入ったらちゃんとストレートに戻るのかな?)
(すばやく通せばバレないかな)
「それでその時のパパったらドレス以外にもわざわざワタシの為に」
(あの趣味悪い髪なら迷子になってもすぐ見つかるだろうな)
(先っちょ引っ張ったらバネみたいに戻るのかな……)
(大丈夫、あたしならできる、自分を信じて、〇,〇五秒で通して〇,〇五秒で抜けばきっとバレない)
「って! アンタら少しは髪以外も見なさいよね!!!」
眉間にシワを刻み、額には血管を浮かべて美羽が怒鳴った。
「悪い悪い、珍しかったもんで」
「すみませんでした……」
「あたし達庶民だかさー(後ろを向いた時がチャンス!)」
「フンッ、まあいいわ、庶民にはここの全てが珍しいっていうのは燕から聞いているわ、それじゃあ、そろそろアンタ達の自己紹介をしてもらいましょうか?」
「はい、では私の班員から、貴方達、真面目にやりなさいよ」
「心得た」
「「「はーい」」」
(最初にあの髪型考えた奴はいいと思ったのか?)
(それとも引っ張ったらドリルの根元からポロッと取れちゃうのかな?)
(大丈夫、イメージトレーニングはもう五〇回やったもん、通してみせる!!)
「では某から」
鷲男が前に進み出て一礼する。
「某の名は大空(おおぞら)鷲男(わしお)、専門教科は技師課程を履修しております」
「専門教科?」
疑問を口にした美羽に燕が口を開いた。
「使用人養成学校、サーヴァントアカデミーでは使用人として必要な技術だけではなく、より専門的な技術習得のため、履修の自由な専門教科が存在します」
「なんで? そんなの専門の職人にやらせればいいじゃない」
「いいですかお嬢様、以前説明した通り使用人の数は多ければ多いほどお家のステータスとなりますが、その使用人一人一人の技量もまた、大切なステータスなのです。
ですから執事やメイドだからと雑務や接客しかできない使用人よりも料理人(コック)や家庭教師(チューター)、運転手(ドライバー)そして園丁(ガードナー)などの役職を兼任できる者が望まれます」
「つまり、その教科を履修してるほうが就職に有利って事?」
「ええ、ですから、私もアカデミー時代は語学課程を履修し、今ではお嬢様の英語、ドイツ語、フランス語の女家庭教師(ガヴァネス)兼通訳をさせていただいております」
「随分語学が達者だと思ったら、そういうわけだったのね」
主である美羽に恭(うやうや)しく頭を下げて燕は口角を上げた。
「お褒め頂き光栄です。では皆様、続きを」
頷いて鷲男が、
「また、技師課程を履修してはいますが、幼い頃より剣道に身を捧げ三段の資格を持っておりますので、ボディガードを兼任できる自信があります」
「ふ~ん、しっかしアンタ顔怖いわね、白鳥家のシミにならないよう気をつけなさいよ」
言われたのは鷲男だが、鷹徒の目元がピクリと反応する。
しかし鷲男本人は平静を保ったまま、
「はっ、一切の汚点を残さずに此度の試験に合格する所存でございます!」
力強い声に美羽はやや不機嫌な顔で目標を雫結に変えた。
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