第5話 派遣先のお屋敷
月曜日の午後二時、鷹徒と雫結は目の前の光景に頭の中が真っ白になった。
「なあ雫結、俺らの担当ってここだよな……?」
「うん……そのはずだけど……」
貧乏人の陳腐な想像力を遥かに凌ぐ光景に二人の顔が青ざめてくる。
もはや何メートルあるか想像もつかない巨大な門、外壁は地平線まで続きどこからどこまでが敷地かも解らない。
さらにその外壁と門の装飾やデザインはもう本当に豪奢の一言につきる。
具体的には? などと聞かれても絶対に説明できないと断言できた。
どんな悪い事をすればこんな門と外壁ができるような家に住めるのだと、テレビの長者番付けでも出てこないような破格の規模に、鷹徒と雫結はひたすら言葉を失った。
「わー、すっごい家だねー」
「ふむ、さすがは白鳥(しらとり)財閥というべきだな」
鷹徒と雫結は同じ動作で隣の雀と鷲男を見て、なんで平然としてられるのだと、また言葉を失った。
「まったく、二人揃って何間抜け面しているの?」
まるで自宅を前にしているような佇まいで余裕の表情を見せる鶫、鷹徒と雫結は三度目の絶句を知った。
「さあみんな、ここが私達が今日から二週間お世話になり、そして我が渡鳥一族が代々お仕えする日本有数の富豪、白鳥財閥の総本家よ……言っておくけど、くれぐれも班長である私に恥をかかせないように」
「「「はーい」」」
「心得た」
鷲男以外はてきとうな返事をする。
鶫はあからさまに疑惑の眼差しを浴びせてからドアホンらしき物の前に立ち、ボタンを押すと何かを話してからまた戻ってきた。
「迎えが来るから、中で待つようにですって」
言いながら、鶫の背後の巨大門が自動的に開き始めた。
思ったよりもずっと静かな音で開いたが、それでも巨大な物が動くとちょっとした圧力を感じた。
門に招かれながら敷地内に入って二〇メートルほど歩き、先頭の鶫が止まると後ろの四人も止まった。
言われるがままにしばらく待つ。
その間、鷹徒と雫結の二人はせわしなく辺りを見渡し、ただ驚き続けていた。
やがて、一台の黒くて長い車が地平線の向こうから走ってくるのが見える。
一個人の敷地で地平線が見える事に呆れながら、鷹徒と雫結はその車にまた驚く。
黒くて長い車から燕尾服を着た黒髪の麗人が姿を現す。
「迎えに来たぞ、鶫」
「わざわざありがとう、姉さん」
お互いに挨拶を交わす鶫と麗人を鷲男は見比べる。
「二人は姉妹か?」
「ええ、こちらは私の姉の渡鳥(わたりどり)燕(つばめ)、私達の監督役よ」
「どうも、いつも妹がお世話になって……いるのか?」
「全然」
鶫に冷たく言い放たれ、
「では、これからは同じ班としてよろしく頼んだ」
「はっ、よろしく頼まれました」
鷲男のマネをして背を伸ばし雀も、
「頼まれました!」
「フッ、素直な子達だな」
涼やかな笑みを見せる燕のショートヘアーが風で僅かになびく。
妹の鶫は十分に美しいが、その姉である燕はその数段上をいっていた。
流れるような黒髪に白い肌、黒水晶のような瞳には一点の濁りも無く、こちらを見つめてくる。
男性が一〇人いれば一〇人全員が一〇〇点をつけるだろう。
「それで鶫……」
燕の美しき瞳が横に向いて…………
「うおー、すっげ、これリムジンだぞ雫結!」
「うわあ、本当にこんな車あるんだ……」
「長っが! これで道曲がるの大変そうだな、俺こんなの運転できっかな?」
「わ、私にはわからないけど、でもこれ凄い高そうだね……傷とかつけたら修理に何十万もかかるのかな……」
鶫と燕、姉妹揃って哀れむような目になり、顔に影が差し込んだ。
「あれもお前の仲間か……?」
「ええ……すっごく恥ずかしいけどあれも私のチームメイトなの……」
子供にように驚きながらリムジンの周りではしゃぐ二人の姿には雀と鷲男もノーコメントだった。
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