第3話 自己紹介


「たっちゃん」


 放課後、小動物改め、朝方(あさがた)雀(すずめ)がタックルじみた跳躍で鷹徒の机に体ごと乗り上げ、鷹徒の胸元にドフッと頭から突っ込んだ。


「フンッ!」


 と、それを真正面から受け止めるのも慣れたものである。

 スルリと机からヒザの上に腰を下ろして胸元に顔をうずめてくる女子はランドセルが似合うスタイルと顔で、ようするに見た目が幼い、高校一年生でありながら、一〇歳と言っても信じてもらえるだろう。


 それでもせめて性格が大人っぽければ救いようもあったのだが、茶髪のショートカットに守られた頭の中は見たとおりである。


「あたし達一緒の班だねー」

「そうだな」


 軽く受け流すのはこれまた茶髪の男子、狩羽(かりう)鷹徒(たかと)、身長一八〇センチで筋肉質という体格のため、対比で雀はさらに小さく見えた。


 鷹徒の顔は一見すると荒々しいがその表情は柔らかく、恐い雰囲気は無い。


 同級生の、それも可愛い女の子に抱きつかれているのだから、本来は喜んで然(しか)るべき出来事だが、鷹徒はいたって冷静である。


 理由は勿論、雀の幼すぎる容姿のため、鷹徒にとって雀は同級生というよりも妹や近所に住む小学女児というポジションにいるからだ。


「ほら、そろそろ降りろ」


 なんの躊躇いも無く雀の両ワキを持って体を持ち上げると、そのまま床の上に立たせた。「鷹徒くん」


 声と同時に、にゅっと伸びた大きな影に雀は覆われた。


「んっ?」


 振り返ると、雀の視界が消え、そのわりに、とても気持ちい触感に包まれる。


「あの、あの……あう、雀ちゃん……」


 視界が塞がれている為、声だけが聞こえる。


「離れろ」


 と言って、鷹徒が雀の襟首を掴んで声の主、沖(おき)之雫結(のたゆう)の胸から引き離した。


「大丈夫か雫結?」

「う、うん、わたしは大丈夫だよ、それよりわたしも同じ班だよ」


 男子と遜色ない身長を猫背で誤魔化そうとする雫結は赤面させた顔で、はにかみ笑った。


「ふむ、班に分かれても平時と変わらぬ面子だな」


 続けて、さらに巨大な影に雀とイスに座る鷹徒が覆われた。


 雫結も後ろを振り返ると影の正体を見上げた。


 少しの揺らぎもない濃い黒の髪と目、そして褐色に日焼けした肌、影の正体も実に黒い。


 クラスぶっちぎりナンバーワンの身長と一緒に筋肉質のがっしりした体格は一目でスポーツの一つや二つは嗜んでいる印象を与える。


 大空(おおぞら)鷲男(わしお)だ。


 顔は一言で言えば鉄面。


 わりと整った顔立ちだが、どんなに見ても、人間というよりも銅像を見ている印象を受ける。


「よりにもよって貴方達と一緒とは、先が思いやられるわね」


 最後の班員の登場に四人の視線が集まる。


 渡鳥(わたりどり)鶫(つぐみ)、これで合わせて執事二人、メイド三人の五人班の完成である。


「まあいいわ、言っておくけど、私が班長で文句無いでしょうね?」


 目を吊り上げて班員を眺め回すが、反論は誰も言わない。


「いーよー」

「やりたきゃやりゃいんじゃねえの?」

「えと……はい、かまいません」

「ふむ、問題ない」


 四者四様のいい加減な反応をされ、鶫は眉間にシワを寄せながら続けた。


「では、これからチームメイトになった以上、全員の使用人を目指す理由を聞かせてもらえる?」

「なんでんな事言わなきゃなんねーんだよ?」


 言ったのは鷹徒である。

 イスの前足を浮かせ、グラグラと体を揺らし遊んでいる。

 鶫の眉間のシワが深くなった。


「ッ……班員の心構えやヤル気などを把握しておいた方が班長としての配慮がしやすいからよ、解ったら早く言いなさい」


 ガタン、とイスの足を床につけて鷹徒は机にヒジをついた。


「俺はただたんに普通の高校行く金無かっただけだよ、ここなら学費タダだし全寮制で家賃もかからねえからな、このご時世に中卒じゃロクな働き口無えし」


 厳しい表情のまま鶫の視線は雫結に向けられる。


「それで、貴方は?」

「ふえっ!?」


 話をふられた途端、雫結の肩が跳ね上がる。

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