第46話 暴君の末路

 すると玉座の後ろから全てを見ていたランドームは慌てて飛び出し二人の前に現れた。


「なな、何が目的だ!? 魔王が今更なんの……生贄ならちゃんと……」

「悪いがランドーム、ここに用があるのは私ではなくこちらの勇者殿だ」


 魔王の風格ある声質と表情でレイドを手で指して、ランドームはまた叫ぶ。


「そそ、そうか、お前勇者か! そうかなるほど、私を殺して民衆の英雄になりたいんだな?

 じゃあ私につけ!

 報酬は依頼人の五〇倍、いや一〇〇倍出そう、お前が殺した騎士達の代わりに私の護衛になれ!

 そうすればなんでも思いのままだぞ、そうだ、私とお前で死ぬまで贅の限りを尽くそうではないか!

 考えてもみろ、ただ民衆の英雄になり名を売ってそこらの国の重臣になるよりもずっと良い暮らしができるぞ!

 それこそお前が見た事も無いようなご馳走を毎日食いたいだけ食えるし、平民共の年収の何十倍もの値段のする酒を浴びるように飲めるんだ!

 当然金銀宝石をふんだんに使った家具に囲まれ高級車に乗って、どうだ、夢のような生活だと思わないか、こんなチャンス滅多に無いぞ!?」


 それでも剣を収めないレイドに、ランドームは思い出したようにまた叫ぶ。


「そうだ大事な事を言ってなかったな、最高の女達に囲まれた生活はどうだ? お前も男なら一度は夢見ただろう!?

 普通の庶民達が雑誌でしかお目にかかれない極上の女達の肉に毎晩埋もれながら好きな事を好きなだけできるんだぞ!

 こんなの変に救国の英雄なんていう清潔なイメージがついたら無理だぞ!」


 レイドの眉がピクリと反応した。


「極上の女と好きな事を好きなだけ……」


 その時、ランドームは心の中で勝利を確信した。


 人間は必ず強い欲望を持っている。


 金欲だったり、食欲だったり、それは人によって異なる。

 だが欲そのものを持たない人間はいない、それがランドームの持論である。

 

 金、ご馳走、贅沢な物品、そのどれにも反応しなかったレイドの欲を掴んだランドームはもう顔から恐怖が消え失せて上機嫌になっている。


「ははは、どうやらお前の一番の欲は性欲、肉欲らしいな、今言ったのは本当だぞ、冷静に考えてみろ、暴君を倒した英雄の作れるハーレムなどせいぜい貴族や名家の淑女達と戯れる程度だぞ、だがわしにつけば話は別だ。

 彼女無しの不様な男共が呼んでいるエロ本はいわばカタログ、今言ったように雑誌でしかお目にかかれない極上の体の女も王の権力を使えばどこの事務所の誰であろうと性奴隷にできる。

 勿論何十人でもだ、今までのお前が思春期を迎えたときからしている妄想を遥かに越えるような事もヤリたい放題だ」


 醜い欲望を凝縮させたその笑みに、レイドは問うた。


「っで、お前はそれをどんだけやってきたんだ?」

「ははは、父上も私と変わらない人だったからな、一三の時から昨晩まで休まずさ、雑誌で気に入った女、街で気に入った女、一人残らず連れ込み飽き果てるまでヤッたら重臣共にくれてやるのさ」

「嫌がる女を無理矢理か?」

「当然、むしろ嫌がる女を無理矢理ヤるから興奮するのではないか、そうだろう?」


 同意を求められて、レイドは静かに語る。


「俺が勇者になったのってさ、女にモテたいからなんだよな、ホント、昔っから性欲強過ぎて、女が何人いても足りやしねえ」

「うんうん分かるぞ、安心しろ、私の味方になったからには一日に何十発でもヤらせてやるぞ、なんだお前意外と分かり易いじゃないか、ははははは」


 ランドームがレイドの肩を叩こうとして、ボキリと気持ちの悪い音が鳴った。


「へっ?」


 見ると、右手の肘から先がおかしな方向に折れ曲がっていた。

 次の瞬間、襲い掛かってきた激痛にランドームはのたうちまわり、泣き喚いた。


「ひぎぃ! なっ、そんな!? どうして!?」

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