第45話 レベル108の魔王
エルはやや離れてその戦いを傍観した。
黒騎士が駆ける、刹那の踏み込みと同時に振り下ろされた黒き剣はバスタードラゴンやキングベヒーモスの首も一撃で落とすだろう。
しかし、その渾身の一撃を、レイドは右手一本で持った剣で受け止めた。
顔には少しもヤル気が出ていない。
「なっ!?」
驚いて、黒騎士はすばやい連撃でレイドを追い詰めようとする。
だがレイドは毎秒毎秒何十と襲い掛かる刃の全てを左手で頭を掻きながら次々跳ね返していく。
「何故だ!? この私の剣が……九九レベルの私の剣が……まさか、貴様も魔族なのか!?」
「いや、俺は人間だぜ」
「ッッ……ならば何故だ!?」
黒騎士の叫びに、レイドは面倒そうな口調で、
「なあ、お前こんだけ強いのに何であんなのに仕えてるんだ?」
「私の両親がランドーム王に仕えていたからだ!」
「でもあいつがどんだけの悪党か知ってるんだろ?」
「そんな事は関係ない、父や母と共に一度忠誠を誓ったならば、死ぬまで忠義を尽くすが騎士道と心得ている!」
黒騎士の主張に、レイドは一度溜息をついて、
「お前も結構腐ってんな……」
レイドの剣が振られた。
その重く、鋭い一撃に黒騎士は弾き飛ばされて、壁に激突した。
そこへ間髪いれずレイドの剣から放たれた金色の波動が襲い掛かる。
黒騎士もさっきのようにMPを使った黒い光の波で相殺しようとして、だがそれは叶わず、黒騎士はレイドの放った光に巻き込まれて、鎧から煙を上げて片膝をついた。
「……馬鹿な……九九レベルの私が人間に遅れを取るなど…………」
剣を杖にして立ち上がり、黒騎士は血を吐き出さんばかりに声を張り上げる。
「絶対にあり得ないのだぁあああああああ!!!!」
黒騎士が再び剣を振り下ろして、その刃からは屋敷一つを呑みこまんばかりの巨大な破壊の黒光が放たれる。
あまりに巨大な過ぎる攻撃はレイドと一緒にエルも巻き込むが、レイドが剣を、エルがまた異次元の蔵(ディメンション・ゲート)から紅月の魔鎌(レッド・ムーン)と蒼月の魔鎌(ブルー・ムーン)を取り出して、前にかざし魔力を放出すると、それだけで黒騎士の放った光は裂けて、レイドとエルの背後を除いた謁見の間の壁を貫いた。
余りの熱量に床が溶けているにも関わらず、レイドとエルはまったくの無傷である。
「今のは結構な威力だったな、力の落ちた私は紅月の魔鎌(レッド・ムーン)と蒼月の魔鎌(ブルー・ムーン)が無ければ喰らってしまうところだったぞ」
融解した床の臭(にお)いに顔をしかめながらレイドも、
「酷いな、前のお前なら今の素手でも弾けたんじゃないのか?」
「力が戻るにはまだしばらくかかるな」
「まあまあそれまでは俺がちゃーんと守ってやるからさ」
「からかうな」
そんなやりとりに黒騎士は剣を落としそうになって、だがなんとか心を奮い立たせると残りの全MPを剣に込めて、レイドに直接斬りかかる。
こちらに駆けてくる黒騎士に気付いて、レイドは向き直って金色の剣を振り上げた。
「悪いな」
レイド剣が振り下ろして、すぐ近くまで迫っていた黒騎士はソレに巻き込まれた。
部屋全てが包み込まれたと感じる程巨大な光の奔流が迸り、その光景は常人には理解できないものであっただろう。
強すぎる光、聞いた事も無いような轟音、数秒後にあったのは、実に半分以上が更地と化した城の最上階だった。
壁も、天井も、何もかもが無くなり、青い空が実に清清(すがすが)しい。
はっきり言えば、謁見の間よりも東側の全てが消し飛んだのだ。
五秒と持たず、原子レベルで滅却された黒騎士、彼の痕跡はもう何も無く、本人は死んだ実感すら無くあの世にいったことだろう。
かすかに残る謁見の間の名残である玉座を見やり、レイドとエルは歩みを進める。
すると玉座の後ろから全てを見ていたランドームは慌てて飛び出し二人の前に現れた。
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