第42話 最強の王国騎士VSエロ勇者
「どうせお前ら死ぬんだし」
「ヒィッ!?」
明らかに怯え、悲鳴を上げるランドーム。
それもその筈、何せ今の今までなんの不自由も無く、何の苦労もする事無く、ありとあらゆる事柄が自分の思い通りになってきた人生だ。
それにそれを守る為とあらば手段は選ばない。
実際、人生唯一の障害であったであろう魔王軍にも危険な目に遭(あ)いたくない、今の生活を守りたいが為にあっさりと降伏して、また苦労する事無く愉快な暮らしに浸かっているのだ。
そんな小物中の小物が、目の前で自分の身を守ってくれる選(え)りすぐりの兵士三〇名と最強の騎士四人をこうもあっさりと殺され、その犯人が自分に殺意を向けている。
同じ暴君でも悪としての器を持った者ならばレイドを好敵手として見るだろうが、そんな度量などランドームに望むべくも無い。
だが、その横に佇む黒騎士は違った。
「ご安心を、我が王よ」
重い声だった。
その一言でランドームは落ち着きを取り戻し、玉座に座り直した。
「は、はは、そうだったな、私にはお前がいたんだった、おいそこの賊、悪いが貴様の命運もここまでだ、こいつはそこでくたばっている連中とは一味違うぞ」
「うっわー、なんて安っぽいセリフ、どっかに台本でもあるのか?」
馬鹿にしたようなレイドの口調にランドームは地団駄を踏んで悔しがる。
「ええい、すぐにその口をきけなくしてやる、行け! その馬鹿者をさっさと殺せ!」
ランドームの命令に、黒騎士の目が兜の奥で光った。
「仰せのままに」
腰の黒い剣を抜いて、黒騎士はレイドに足を進め、距離を徐々に詰めて行く。
「貴様に質問がある」
「?」
「貴様はレベルとは何かを知っているか?」
「お前バカにしてんのか? レベルってのはこの世に存在するあらゆるモノの戦闘能力を大まかな数字で表したこの世界が持っている基準だ」
「ではその限界点はどこだ?」
「限界? レベルに限界なんてあるのかよ?」
小首を傾げるレイドを見て、黒騎士は立ち止まる。
「九九、人の歴史でこれを越える人間はまだ確認が取れていない、おそらくはそれが人間という種の限界なのだろう、だが、それはつまり魔族や龍人などを除けば、レベルが九九あれば同じ人間相手には負けないという事だ」
「ああもう長ったらしい、それがなんなんだよ!? もしかして私はレベル九九とかそういうあれか? そんな奴いたら大陸中でとっくに有名になってるっつうの」
レイドの怠慢な対応に、黒騎士は剣を構えて答える。
「確かに私のレベルは九九には及ばない、普段はな」
「……」
レイドの表情が改まる。
「我が一族の中でもごく限られた者しか発現できぬ能力、それは元のレベルに関わらずレベルを九九にできる事だ」
「へぇ……」
レイドの肉体が戦闘体制に入り、意識が黒騎士に集中する。
「その能力なら前に本で読んだ事があるぜ、レアスキル、リミットウォール、その名の通り限界の壁まで使用者の肉体を強化する。
でもその副作用でレベルを上げている間は寿命が減るって書いてあったぜ」
「そうだ、元のレベルとの間に差があるほど、その減りは激しい、私自身のレベルは六六、これからレベルを三三、上げよう」
レイドの目に、それは映った。
レベル:九九
HP:九九九九
MP:九九九九
筋力:九九九
魔力:九九九
物理防御力:九九九
魔法防御力:九九九
速力:九九九
二人の距離が一瞬でゼロになり、互いの剣が火花を散らした。
玉座の後ろに隠れて、ランドームは震えながらその戦いを見ていた。
広い謁見の間を音速で飛び交う二つの影。
常に接触し合うソレからは絶え間ない金属同士が激突して生じる衝撃音が響き、それは毎秒五回、六回と数を上げていく。
「スゲー力だなおい」
「これが人間の限界点だ、それに反応した貴様も十分に凄いさ」
二人の剣の一振り一振りにはあの超巨大矢発射砲(バリスタ)すら足元にも及ばない威力が込められており、その一撃は空振れば衝撃波で謁見の間の壁や天井を裂き、相手の剣と接触すれば空気を激震させた。
二人が足をつけた場所は一箇所の例外も無く抉れ、床には片っ端からヒビが入った。
「おいてめー、これだけの力があってなんで魔王倒そうとか思わなかったんだ?
お前だったら降伏なんかさせないでこの国を救えたかもしれねえぞ」
「私は只、王の命令に従うのみ、王が命令しなければ戦わない、そして何よりも私は一度魔王を見ていて、あの者のレベルは九九など軽く越えていた」
「…………」
「所詮は私も人間、最強の魔族たる魔王、そして歴代の魔王の中でもさらに最強と言われるエルバディオスには勝てないさ」
「俺は勝ったぞ」
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