第41話 世間知らず

 門を破り、レイドが謁見の間に躍り出る。

 

 長い赤絨毯の先にある玉座には、高そうな紺色のスーツを着た初老の男が座ったままこちらを見据えていた。

 

 玉座の周りには歩兵達とは明らかに違う、一目で上級兵と分かる豪奢な鎧を着た数人の騎士達がいる。


 それ以外にも、赤絨毯で分けられ部屋の両サイドには護衛の兵士達が立ち並び、一斉にこちらを睨みつけてくる。


 アイテムボックスからサーチモノクルを取り出して兵士達にサーチを使う。

全員が三〇レベル前後、今まで戦った兵士とは格が違う。


「貴様何者だ!?」

「もしや先ほどから続く騒ぎ、貴様の仕業か!?」

「賊の分際でこの謁見の間に侵入するとは、斬り殺してくれる!」


 相手が魔王を倒した男とも知らずに、人間の中では強い兵士達は口々にそんな事を言いながら斬りかかって来て、


「邪魔」


 レイドが剣を一振りしただけで、その刃から放たれた巨大な斬撃で計三〇人ものエリート騎士達は少しの抵抗もできずに肉片と化した。


 衝撃で弾け飛んだ赤絨毯、兵士達の血肉で溢れる床、今までは余裕の顔だったランドームは思わず立ち上がりそうになり、周囲の騎士も僅かに反応した。


 この謁見の間に侵入した事実と、この国自慢の騎士団をたったの一撃で全滅させた今の出来事で、騎士達にもレイドが只者ではない事が理解できたらしい。


「お、おい、あいつのレベルはどうなんだ?」


 ランドームに耳打ちされ、騎士の一人が兜に仕込まれたサーチモノクルの力を使ってレイドを探るが、全ての項目には〈?〉の表記がされている。


「分かりません、どうやら何かの魔術耐性を持っているようです」


 別の騎士が前に進み出た。


「ですが、我らより強いという事は無いでしょう」


 全部で五人の騎士の内、四人がレイドへと歩み寄る。


 レイドがサーチモノクルを使うのは、実はフェイクで、実際にはレイド自身サーチの呪文は使える。


 剣を持った手をだらりと下げたまま、レイドは無防備なフリをして、こっそりと四人のパラメーターを探る。


 四人のレベルは六〇が二人、あとは六三と六五、これだけのレベルを持つ者などそうそうはいない。


 この四人ならば、どの国に行っても最強の一人に数えられる事だろう。


 とは言っても、この男、レイド・ラーシュカフには関係の無い話だ。


 四人の騎士は同時に距離を詰めて、別々の方向から斬りかかり、だが只の一人もレイドに触れる事は叶わず、胴体と下半身が分かれてその場に倒れ伏した。


 ランドームの目には、レイドの太刀筋など見えていない。


 その横で最後の騎士が漆黒のフルアーマーの兜の下で顔を歪ませる。


 騎士達の死体を平然と踏みつけながら、レイドは剣を肩にかけて歩みを進める。


「良い剣だな」


 最後に残った黒い騎士に言われて、レイドは剣を突き出した。


「だろ? なんせ伝説の剣を四つも配合して作ったモンだかんな」

「何?」


 黒騎士に向かって剣を突き出したまま、レイドが語る。


「こいつはノームソード、ウンディーネソード、シルフソード、イフリートソードを調合して作った俺のオリジナル。

固体、液体、気体、エネルギー体の全てを斬り裂く最強の剣、マテリアルブレードだ」


「今の四本、いずれもこの大陸に眠ると言われる秘宝、だがその封印場所は一軍を以ってしても攻略の叶わぬ危険指定区域のはず、それを何故貴様のような小僧が持っているのだ?」


 低く、静かな問いかけにレイドはあっけらかんと、


「そんなの俺らが各地を回って直接手に入れたに決まってんじゃん、最初は魔王退治の旅に出たつもりだったんだけどよー、まっすぐ魔王城にいくはずがなんか訳の解らないトラブルに巻き込まれたり頼みごとされたり関係無い国の姫助けたりしまいには各国の王とか怪しい老人や預言者達が魔王城に行くには色々条件があるとか言い出して……

しかも魔王の前に小ボスとか中ボスとか大ボスとか親衛隊とか四天王倒さなくちゃならなくてそのために大陸中駆けずり回って古城とか洞窟とか祠とか神殿とか行ってそこ攻略するたびに伝説の装備品手に入っちまってよー、最初は装備武器屋で買ってたのに途中からはダンジョンの宝箱の物しか身につけなくなってそんなこんなしてたら装備もスキルもフルカスタムの最強レベルでっと……」


 ランドームと黒騎士が白けている事に気付いて、レイドは剣を下ろした。


「まあこんな事話しても仕方ねえか」


 息をついた途端、レイドの全身から殺意が放たれた。


「どうせお前ら死ぬんだし」

「ヒィッ!?」

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