第40話 魔王と勇者
「伏せろレイド!」
城門へ接近したエルはチャリオットの速度を落とさない。
代わりに二本の大鎌、紅月の魔鎌(レッド・ムーン)と蒼月の魔鎌(ブルー・ムーン)で同時に横薙ぎの一撃を虚空に放った。
二枚の刃から放たれた紅い光の刃と蒼い光の刃は城門に直撃、巨大な裂目を作った門はキングベヒーモスの突進に耐え切れる筈もなく、木端微塵に砕け散った。
城内の広い廊下も魔王の戦車(チャリオット)の前には脆く、壁も床も天井も残らず砕き割り、キングベヒーモスは咆哮した。
城内にいた兵士達を踏み潰しながら、レイドがハタと気付いた。
「って待てよエル、こんなんして間違ってメイドを殺したりしないだろうな!?」
「安心しろ、この事態だぞ、非戦闘員はどこかの部屋に隠れているに決まっている。
廊下だけを走っていれば問題はあるまい」
「まあ、それならいいけどよ……」
腑に落ちないレイドに見かねて、エルは嘆息を漏らす。
メイド達が怯えると気分が悪いか?」
顔をパッと明るくして、
「そうそう、解ってんじゃんエル、さっすが俺の嫁」
ポッと頬を染めてうつむく、
「ま、まだ嫁にはなっていない」
「まだって事はいつか嫁になってくれるんだよな」
首で腕を回されて、エルの顔が首元まで赤くなる。
それを誤魔化すようにエルは声を張り上げる。
「あー面倒だ! こうなれば一気に最上階まで行くぞ! チェンジ召喚! 来たれ! バスタードラゴン!!」
キングベヒーモスの体が光る。
その巨躯が空間にほつれていき、代わりに全身を頑強な、鋼のような皮膚で覆ったドラゴンが召喚され、チャリオットを牽引する。
「飛べ!」
エルバディオスの命令にバスタードラゴンは鋼の翼を広げて跳躍した。
バスタードラゴンは鳥のように羽をはばたかせて浮力を得ているわけではない。
その羽を触媒にして魔力を使い、飛行魔術のようなモノを行使しているのだ。
そのため、例え場所が狭かろうが、羽を満足に動かせなかろうが関係無い、バスタードラゴンが発生させた浮力はチャリオットごとその巨躯を跳躍した時の速度で舞い上げて天井を貫かせた。
「うっは、過激だなおい!!」
子供のように喜ぶレイドの横でエルは冷静に階数を数える。
天井をブチ破り、歴史ある古城の内部に巨大な風穴を開けて、エルは言った。
「最上階だ」
天井を破ったバスタードラゴンは翼を折畳み、廊下に降り立つと一度大きく吼えてから走り出した。
城の中を荒らしまわりながら、前方に左へ行ける曲がり角が見えたところでエルは左手の蒼月の魔鎌(ブルー・ムーン)をヒュッと振った。
鎌の先端には襟元を引っ掛けられた中年の男がぶら下がっている。
身なりからして、結構な権力を持っていそうだ。
「おい貴様、王は今どこにいる?」
男は泣き喚きながらも、
「ここ、この道を突き当りまで行って曲がり角をそのまま行けば謁見の間に一本道です」
「ご苦労」
後ろへ投げ飛ばされて、男は血を吐きながらゴロゴロと床を転がりながら遠ざかっていった。
死んではいないだろうが、回復呪文を使っても後遺症が残るだろう。
「よし、このまま行くぞ」
そんなエルを横目で見ながら、
「お前も俺のことあんま言えねえな」
「むっ、それこそ貴様には言われたくないな」
などと言っている間に巨大な門が見えて、エルはドリフトを利かせて急ブレーキをかけるとレイドを放り出し、自らもチャリオットから飛び降りる。
「ここは私に任せろ、貴様はランドームを」
「ああ頼んだ、愛しているぜエル」
赤面して、
「馬鹿!」
と言い背を向けられてからレイドは謁見の間への扉を派手に斬り裂き突入した。
レイドを肩越しに見送ってから、エルが前に向き直ると、奥からは城内の兵士が次々になだれ込んでくる。
中にはレイドを殺せと命じられた城外のバーサーカーと化した兵もいた。
しかし、レイドが最強の勇者ならばこちらは魔族最強の王、何百という兵士を前にして、少しも怖じる事無く両手の大鎌を光らせて啖呵を切る。
「さあ来るがいい人間共……」
不敵に笑い、
「魔王が相手だ」
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