第39話 クズ側近の末路



 爆心地のような激しさを極めた戦場で、レイドはまだ三日目にも関わらず親しみ好んだ魔力と、自分とは違う者の轟音に頬をほころばして振り返った。


「エル!」

「乗れ! レイド!!」


 レイドが跳ぶと、力場はレイドにはなんの抵抗もせずにすんなりと御車台に招き入れてくれる。


 シルバーのミュールにデニム地のミニスカート、ピンクのキャミソールと白のハンドウォーマーを身につけた少女の両手が柄も刃も成人男性ほどもある巨大鎌で塞がっている事を確認して、レイドは後ろから抱きついた。


「エルー」

「わわ、ばっ、馬鹿者! 急に何をするんだやめろ!」

「えー、何々、俺のために駆けつけてくれたのかよー、可愛いじゃんよもう」


 ドサクサに紛れて豊かな胸を揉まれ、エルの喉から卑猥(ひわい)な声が漏れそうになる。


「ッッ!」


 鋼の精神力で耐え抜き、エルは右手の紅月の魔鎌(レッド・ムーン)で横振りの一撃を浴びせようとして、レイドはブリッジ寸前の仰け反りでそれを回避した。

 僅かに切れた前髪に血の気が引いた。


「殺す気か!?」

「貴様が変な事をするからだろう!」


 と言ってから目を反らし小声で、


「それにそういうのはベッドとかで……」

「んっ? どうかしたか?」


 視線を戻してエルはバタバタと両手を振りながら慌てふためく、必然的に両手の大鎌も振り回されて実に危険である。


「なな、なんでも無い!

それに、言っておくがお前の為に来たわけではないぞ!

本当は殺してやりたいが魔王のプライドに賭けても、貴様とはベストコンディションの一対一で勝たねば意味がないのだ!

 だが今の私は闇の戦闘形態(アウゴエイデス)を破壊されて弱体化しているゆえ、力が戻るまで当分の間は決闘できなくて、それまでに死なれたら困るわけで……だから……とにかくコレは私自身のためにやっている事で貴様の役に立ちたいとかじゃ絶対……って何ニヤニヤしているんだ貴様は!!?」


 犯罪スレスレの表情と指の動きでにじりより、レイドは目から怪しい光を放つ。


「いやぁ、エルってどうしてこんなに可愛いのかなーってよ」

「今度触れたら本当に斬って捨てるぞ!」


 言うが、レイドの伸びてきた手に頭を撫でられても鎌を動かす事はできなかった。


「ははは、好きなだけヤらせてくれたら斬ってもいいぞ」


 撫でられている頭頂部と顔が熱くなるのを感じて、顔を隠すように振り向いて、背を見せる。


「ええい、とにかくこのままランドームの城へ行くぞ!」


 表情を改めて、レイドも剣を構えて前方を見る。


「ああ、女達を不幸にしてるランドームのクソ野郎ブッ殺すぞ!」



   ◆



 兵士も車両も、行く手を阻む存在全てを玉砕しながら爆進するレイド達の姿にビルの背筋が凍った。


 一万の軍勢を持ちながら賊に城内へ侵入されたとあっては、それこそビルは上流階級から落とされ二度と返り咲く事は不可能だろう。


 いや、責任を取って処刑だってありうる。


 自分の未来の、将来を守るためにはどうしてもレイド達を食い止める必要があった。


 冷静さを失い、金髪をガシガシと掻きながらどうすればよいのかと汗を流した時、レイド達が乗る戦車の両サイドから、突如黒い光の刃が生えた。


それはどこまでも伸びて左右それぞれ五〇メートルほどにまで伸びて左右の敵も取りこぼしの無いようにチャリオットは戦場を駆け抜けて、そのままビルのいる高台の横も駆け抜けていった。


「は?」


 傾く床が理解できないまま、ビルのいる高台は倒壊した

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