第38話 美少女魔王の加勢


 城壁の中の騒動を、魔王エルバディオス・フェレスカーンは空より傍観していた。


 カンの鋭い者意外には知覚されない補助呪文を使い人目を避け、彼女は地上と変わらぬ立ち姿で空からレイドを見て、その光景に呆れていた。


 なんの縁も所縁も無い女達を救うために万軍に単騎突入……

 

馬鹿げているとしか言えない。

 狂っているとしか言えない。

 笑い話にもならない。

 誰がそんな話を信じるか。

 なのに、レイドの放った呪文でまた数十の兵士が死んだ。

 兵士達の攻撃にレイドは無傷である。

 万軍を相手取り、余裕すら感じる戦いぶりでレイドは突き進む。

 たった一人でだ。


「あんな男を心配して……馬鹿だな私は……」


 そうだ、万軍に単騎突入など無謀だと、エルバディオスはそう考えていたのだ。

 常識に乗っ取った正しい判断だったはずだ。

 でもそんな常識が通じる男ではないのだ。

 自分は何を見落としていたのだろうか……

 自分は何故忘れていたのだろうか……

 レイドはただの馬鹿でもスケベ野郎でも無い。


 馬鹿騒ぎで失念していただけ、そう、奴こそ、レイド・ラーシュカフこそ、若干一七歳にして大陸最強の魔族、魔王エルバディオス・フェレスカーンを倒した大陸最強の勇者なのだ。


「はぁああああああああ!!」


 レイドの大振りの一撃で一〇〇の兵士が一度に殺された。


 全ての兵士が狂戦士(バーサーカー)に変えられたが故に、全ての兵士が肉体の限界などおかまいなしに肉迫し、襲い掛かってくる。


 だが、どれだけの力で殺しにかかろうが、アリが象を殺せぬように、羽が千切れんばかりに動かそうと虫が竜巻を越えられないように、弱い凡夫共に生きた自然災害が如くレイドを止められる筈が無いのだ。


 ビルに理性を奪われてまで戦う兵士達の結末は哀れ、嵐の直撃を受けたように片っ端から薙ぎ倒され、吹き飛ばされ、命を刈り取られていく。


「レイド……」


 エルは悩んだ。

 今ならば、混乱に乗じてレイドを殺せる。

 魔王である自分を倒した男、憎き人間の勇者、なのに……


「…………」


 そっと自らの胸に手を当てて、レイドの言葉を、笑顔を思い出す。

 レイドは自分を一人の女の子として見てくれた。

 何人もの美女を侍(はべ)らせるよりも自分一人が欲しいと言ってくれた。

 自分のために生きろと、そう言って優しく抱きしめてくれた。


 魔族という種族も、王族という地位も関係なく、エルバディオス個人を好きだと、そのために救国の英雄という地位も名誉も捨て去り、苦楽を共にしたであろう仲間すら裏切って自分を魔王という責務から解放してくれたその勇者の事を考えながら、エルは頬を染めた。


 そして、今は女の為に一国の王に立て付き万軍と一線交えているレイドの姿を見据えて、エルは耳まで紅くして誰もいないのに一人で、


「まったく、本当にしょうのない奴だ、まあ本当は殺してやりたいが魔王のプライドに賭けても一対一で勝たねば意味がないし、だが今の私は闇の戦闘形態(アウゴエイデス)を破壊されて弱体化しているからベストコンディションではないゆえ当分それは無理であってだな……だから、これはそんなんじゃないんだぞ私!!」


 可愛い一人芝居をしてエルはレイドの破った城壁の門の前に降り立つと髪と瞳を本来の白銀と鮮血の赤に戻して口を開いた。


「魔王……百式武装……召喚!!」


 エルの言葉に呼応して、サイドの空間が赤くスパークした。

 何も無かった空間からは巨大な戦車(チャリオット)が牛のようなモンスター、ベヒーモスに引かれて参上した。


 魔王の宝物に相応しい荘厳(そうごん)なチャリオットに飛び乗り、エルはさらに異次元の蔵(ディメンション・ゲート)を開放した。


 両サイドに現れた黒いグリップを両手それぞれで素早く掴み、空間から一気に引き抜いた。


「久しいな紅月の魔鎌(レッド・ムーン)に蒼月の魔鎌(ブルー・ムーン)、また私の為に働いてくれ」


 遠方の戦いを見据えて、エルは高らかに叫ぶ。


「貴様の主、魔王エルバディオス・フェレスカーンの名において命ずる!

 蹂躙(じゅうりん)せよ! キングベヒーモス!」


 魔王の声にベヒーモスはその巨体を揺らして一度大きく鳴いて地を激走する。


 一瞬で加速したチャリオットは進行方向上の全てを命令通りに蹂躙し、そして暴虐の限りを尽くした。


 チャリオットの周囲には特殊な力場が発生しており、兵士やその死体はチャリオットに触れる事無く肉片となりながら飛び散り、蹂躙された地面は抉れて一瞬で荒地と化してしまっている。


「待っているがいい勇者レイド、今、この魔王エルバディオスが加勢してやろう」




電撃オンラインでインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

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