第34話 クズ王のクズ側近がクズ過ぎる

 ランドーム王国の若き知将として知られる黒コートの男、ビルは不敵な笑みを浮かべて城の廊下を進みバルコニーへと向かっていた。


 今回の作戦。


 スラムの者達を鉱山に送り労働させたほうがより多くの金が稼げる事、そしてスラムを潰してできた広い土地をショッピングモールやレジャー施設にするというのも、全てはこの男、ビルの進言による物なのだ。


 理由は当然、自分の出世のためである。


 三〇代半ばにして既に王ランドームの側近という立場はかなりおいしいが、それでもまだまだ古くから仕えていた老臣達のほうが立場は上で、中には若い自分の出世を快(こころよ)く思わない者もいる。


 だからビルにはより自らの地位を磐石なモノにし、かつ老臣達と同等以上の力が欲しいのだ。


 王に気に入られる為なら、王に信頼され出世し自らの地位と名声を上げるためならスラムの貧民共がどうなろうとビルの知った事ではない。


 いや、むしろ自尊心の強いビルからすれば名門の出である選ばれし人種たる自分のために犠牲になるのは貧民の、クズ達の役目であるとすら思っている。


 そんな、ありきたりなほどの悪党思考の持ち主が最高権力者である王の側近をしているという事実は国民の誰もが否定したいだろうが、それがまかり通るのがこのランドーム国だ。


 三階のバルコニーへ出て、眼下に広がる兵団を満足げに眺める。


 それぞれの役目に合わせた武装で身を固めた戦士と術師、計一万の兵隊だ。


 これほどの力が、戦力が自分の作戦で動くという優越感に身を委ね、ビルは僅かに口を緩めた。


「では皆の衆、我らがランドーム国のさらなる発展と幸福のため、偉大なるランドーム王に逆らいし反乱分子達の巣窟と化した貧民街を平らげる!

 正義は我らにある、王の裁き遂行は我ら家臣の務め、王の鉄槌の前に愚かなる反逆者達に身の程を知らしめ、この国に正しき秩序を取り戻すぞ!」


『おおおおおおおおお!!!』


 実情は兵士達も知っている。


 スラムの貧民達を鉱山で奴隷にように使い、スラムを潰してそこに新しい施設を作るための一方的な破壊行動、だが自分達の生活に関係無い事なら罪の意識は無い。


 王が王なら家臣も家臣、本来国民を守るための兵隊達もここまで腐り切っていた。


 城壁から城門までの広大な敷地を埋め尽くす大軍はビルの指示の元、回れ右で外へと通じる城壁の門へ向き直り、前進する。


 一万人もの人間の大移動、鎧の金属音は何百何千と折り重なり彼らの威圧感を増大させる。


「開門! 開門!」


 一人の叫びに、城壁の上に立つ男が城壁の門を開けるためのクランクに手をかけて、門は粉々に砕け散り、前衛の兵十数人がその破片に直撃して気を失った。


『…………!?……!?』


 兵士達は呆気に取られて、部隊長達も、


「……へ?」


 と、マヌケな声を上げた。

 ちなみにまだ城の中にいたビルは気付いていない。

 優雅に歩きながらこの作戦の総大将に相応しい、特別に強固で要人警護に秀でた軍用車へと向かっていた。

 門の破砕音もビルには「んっ、今何か聞こえなかったか?」程度である。


『………………』


 砕けた門の辺りへ皆が注目して、巻き上がった土煙が徐々に晴れる。

 あらかじめ解説しておくと、超保身的なランドーム王の性格を体現した門は横幅一〇メートル、高さ一二メートル、厚み三メートルという規格外のサイズである。

そんなトンデモない物を砕いたのは、たった一人の人間だった。

黒い髪と瞳、白い肌は首から下を白銀の鎧に包み、右手には金色に輝く剣(つるぎ)を携えその場に佇んでいる。


 敵が一人である事に兵士達は安堵するが、次の瞬間、その男が口を開いて、場の空気が変わった。


「ランドームってのは今、城にいるのか?」


 兵の一人が、


「そんなの決まっているだろうが!」



 と言って、白銀の男が、


「ブッ殺す!!!」


 男の咆哮に世界が震撼した。


 歩兵Aが現れた。

 歩兵Bが現れた。

 歩兵Cが現れた。

 歩兵Dが現れた。

 歩兵Eが現れた。

 歩兵Fが現れた。

 歩兵Gが現れた。

 歩兵Hが現れた。

 ………………

 万軍が現れた。

 合計HP二一〇万五九〇〇ポイント


「はぁああああああ!!!」


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