第28話 スラムのレジスタンス
鎧を着てからホテルから出て、路地裏へ入り五分後、レイド達はスラムへ入った。
表の街とは違い、臭くて汚く、そして冷たい雰囲気のする空間にレイドが顔をしかめ始めた。
「ここだよ」
グリーンが立ち止まったのは、貧乏人用のボロい宿屋だった。
サービスなど一切無く食事も出ない、ただ雨風しのげる部屋と堅くて寝にくいベッドを提供するだけの場所である。
ギシギシと軋むドアを開けると、愛想の無いオヤジがチラリと視線をグリーンに向けてから、今度はレイドとエルを見た。
「そいつらか?」
一言聞いて、グリーンが、
「そうだよ」
と返して会話は終了、グリーンに案内されるがままにレイドとエルはカウンターの横のドアから奥へ行き、地下へ降りる階段にさしかかる。
宿屋の地下はがらんどうの空間で広く、だが中には何人もの人間達、それも服装から一目で下流階級の人間達である事が分かった。
埃っぽい空気の中、グリーンが進み出る。
「みんなー、勇者様連れてきたぞ!」
その声に、全員の視線が一斉にレイド達に集まった。
しかし、屈強な戦士を期待していた男達はまだ青年乙女のレイドとエルの姿を見て怪訝な顔つきになる。
しかも、レイドは鎧姿だが、隣のエルはシルバーのミュールにデニム地のミニスカート、ピンクのキャミソールに白いハンドウォーマー姿である。
これではとてもではないが勇者一行の仲間には見えないだろう。
「おい、あんたら本当に勇者なのか?」
一人の男に問われて、レイドは面倒臭そうに、
「そうだよ、ちゃんと国家資格取った。俺が勇者でこいつが黒魔術師」
また別の男が問う。
「じゃあなんでそんな格好してるんだよ?」
「俺の趣味」
皆の顔つきがますます怪訝になってから、
「だいたい勇者や剣士、格闘家みたいな戦士系なら守備力の高い服装や鎧すっけど、術師は服装に制限なんてねえだろ?
そりゃあ確かにMP上げるような特殊効果のついた装備とか着た方がいいにこしたことはねえが、生憎とうちの魔術師は優秀なんでね、装備に頼らなくても地力だけで十分戦えるんだよ」
『…………』
しばしの無言の後に、グリーン少年が言う、
「で、でも俺見たんだよ、この兄ちゃんがランドームの兵士パパッとやっつけるとこをさ!」
「あーあれか」
「ほら、やっぱりこの兄ちゃんだろ!」
ランドーム騎士団撃退はレイド自身も認め、スラムの男達も期待こそ顔に無いものの、先ほどよりはましな顔になる。
また一人の男が口を開いた。
「それじゃあ勇者様、俺らの話を聞いてくれるのかい?」
「内容によるな、話すだけ話してみろよ」
すると、男達は王への憎しみを思い出しているのだろう、辛そうな顔、怒りに満ちた顔を浮かべながら語り始める。
「この国の王ランドームはランドーム国内のあらゆる町や村には重税を命じて俺らから金を巻き上げるくせして金を街の整備や福祉には使わず、自分が済む首都ランドームシティの都市開発や自らの贅沢のために労費し続けてやがんだよ」
「しかもその首都ですら貧しい俺らを表通りから離れたスラム街に追いやって自分が目にする場所ばっか発展させて中流階級以上の連中だけ住まわせてんだ」
「このランドーム国は絶対王政、今の王が変わるか誰かが革命起こして民主政にならない限りこの国は変わりゃしねえ」
「しかも俺らの苦しみは重税だけじゃねえ、そのランドームに尻尾振って忠誠誓った国の役人達は街で好き放題に振る舞って民衆を威圧している」
「重税と兵士達の暴力で俺らスラムの連中だけじゃなくて表で生きてる中流階級の奴らだって苦労してんだ」
「ランドームの野郎を頂点として下が役人、上流階級、中流階級、下流階級、この暗黙の身分制度の下側にいる俺らは夢も希望もあったもんじゃねえ」
「だってのによー」
皆の目に涙が浮かび、一人が叫ぶ。
「ランドームの野郎、俺らのスラムを潰してショッピングモールやらレジャー施設作るから全員退去しろとかぬかしやがった!」
その言葉に、レイドが反応した。
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