第26話 女暗殺者の末路


 妖艶な美女の声にレイドが一瞬で跳ね起きた。


 全身を黒衣に包んでいるのは先ほどの男と同じだが、今度のアサシンは美しい顔をあらわにしていた。


 服の上からでも一目で解る肉感的な体にレイドの脳内が邪気にまみれた。


「なあ、もしかしてお前男を誑(たら)し込んで情報を聞き出すタイプか?」

「その通りだ、もっとも、情報を聞き出した後は漏れなく殺しているがな、言っておくが貴様が男である以上、私の半径三メートル以内に五秒いたら、もしくは息を吹きかければ一瞬で理性を失うぞ」

「そんな情報教えていいのかよ?」

「余裕の証拠だと受け取ってくれ」


 大きな目でウィンクする女アサシンに、レイドの邪気は増大し続ける。


「フェロモン使いか、男殺しとか言われるクチだな、何にせよ敵が増えたのはありがたい、こちとらせっかくのムードぶち壊されてさっきの奴だけじゃまだ怒りが収まらねえんだ」


 と言って、レイドはあの街の女の子達を魅了した胡散臭い笑顔と声でエルに、


「じゃあエル、私はこれから命をかけた死闘をするがそれに君を巻き込みたくない、だから部屋の外で待っててくれないかい?」

「なっ、貴様一体何をするきだ!? おい、ちょっ、レイド!」


 抵抗しながらも、レイドに抱き上げられて無理矢理部屋の外に締め出され、エルはすかさずドアに聞き耳を立てた。

 がさごそとしばらく音がした後に……


「なッ! なんだソレは!!?? ちょっ、やめッ、待ッ!」


 エルの目が大きく見開かれて、顔が熱くなる。



「だから待てと! 裂ける! 絶対無理だ裂けてしまう!!! 許してくれ!!」


 エルの脳内でR指定の妄想が広がり、ドアに張り付いて耳と首元まで爆発したように燃え上がる。


「あぐっ! あうあ……ッッ! うぐ!! こっこれは!! はっ! あっ! あぐあ!! がはぁあああ!! ああん! あうぅ! やっやぁあああああ!!! くあ!あああああ~~~~~~」


 エルの想像力と精神の限界が近づき、


「やめてぇ! 砕けちゃうぅうう!!!! あああああ頭の中真っ白で腰骨砕けて背骨がはずれちゃうよぉおおおお!!!! ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙~~~~~~~~」




   作品のモラルを守るため、一部描写をカットさせて頂きます。

   決して、作者の手抜きではありませんので、お間違えの無いように。

   引き続き《勇者と魔王の逃避行》をお楽しみください。

   (勇者と魔王の逃避行は全年齢対象です)




「ハッ、今何か変なナレーションが頭の中に……っとそうだ、レイドはどうなったのだ!?」


 エルは脳味噌の許容量を超える刺激に見てしまった白昼夢から我に返り、今一度ドアに注目するが、中からは物音一つ聞こえてこない、すると、


「エル、もう入ってきていいぞ」


 レイドの声、レイドの無事を確認して、エルは慌てて入室、かくして、レイドはベッドの上で胡座(あぐら)をかいていた。


 ちなみに、着衣はしっかり身に着けているが、ツルツルになった玉のお肌を輝かせながら一言。


「さっすが男殺ししてただけあってなかなかのモンだったぞ」


 笑顔の勇者にエルは恐る恐る、


「あ、あのアサシンはどうした?」

「ああ、あいつなら情報全部聞き出したから風呂場に放置しといた」


 風呂場、と聞いてエルがゆっくりと風呂場の戸を開けると、


「!!!!!??」


 中でモザイクをかけねばならない半死状態の女アサシンを発見して、バタンと戸を閉めレイドの元に戻った。


「あの、あの、レイド……あれは、その、だから一体……」


 しどろもどろに聞くエルにレイドは余裕の笑みを浮かべる。


「ああ、俺が開発したどれだけ強い刺激を受けても気を失う事ができなくなる呪文刺激天国(カフェインタイム)使ったらあんなんなっちまった。

 頭は丸二日、上半身は丸五日、腰から下は丸十日は使い物にならないだろうな、しばらくは軽い精神障害があるかもしれないけど一ヶ月もすれば以前と同じに完治するよ、しっかし、こんなに楽しんだのは久しぶりだな、おかげでHPもMPも満タン、まだ腹二分目だから物足りねえけど、旅の途中じゃ仕方ねえよな」


 痛快に笑うレイドに言葉を失って、エルは顔を引きつらせながらベッドに座った。


「っで、あの女から聞き出したんだけど、最初の男の言った通り、この国の暴君ランドームは自分に少しでも歯向かう奴の存在は我慢できなくて前の町とこの街で兵士を倒した俺の事が気にいらねえんだと、ついでにこの街のスラムには反政府勢力みたいなのがあって俺がそこに雇われた傭兵の可能性も疑っているとか、どんだけ心配性だよって話だよな」


「いや、それだけこの国は王の権力がはびこっているのだろう、王の命令は絶対、王に逆らうのは反政府勢力だけ、そう言う考えがこの国にはあるのかもしれん、それで、貴様を殺して見せしめか?」


「らしいな、まあ明日の昼にはこの国から出て行くし、それまで問題が起こらなければいいんだけどよ」


「難しいだろうな、街へ出れば奴らに見つかるし、変装でもするか?」


 エルの提案にレイドはアゴに手を当てて思案する。


「まあ俺は鎧変えて兜で顔隠せば、エルも今日買った服に着替えて帽子と眼鏡をすれば、まあ明日半日くらいはどうにでもなるだろ……」


「ふむ、半日か、朝早くに港へ行き出航する前から先に船に乗り込み、出航まで待つ事はできないのか?」


「そうだな、客が乗船できるのは出発の二時間前、一時の出航だから俺らが乗れるのはどんなに早くても一一時、まあそれなら半日と言わず逃げるのはせいぜい三、四時間で済むか」


「なんとかなりそうだな」


 ドアのチャイムが鳴ったのは、丁度エルが胸を撫で下ろした時だった。


 二人は表情を改め、レイドは慎重にドアに近づき、そして開けると、廊下には以外な人物がいた。

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