第25話 暗殺者の末路
「ほお、我が一撃を防ぐとは、やはりただ者ではないな」
男の声を聞いて、エルは異次元の蔵(ディメンション・ゲート)から黒いローブを召喚、レイドから脱け出すとすぐにそれを着て構えた。
「何者だ!?」
エルの声に合わせて、窓から一人の黒い人型が現れた。
「我は偉大なるランドーム王に仕えしアサシンの一人、名は……これから死ぬ者に言う必要はないな、そこの男、確か夕方にもランドーム騎士団に歯向かっていたな、そして昨夜にも、貴様には我が王への反抗の意志ありとみなし粛清(しゅくせい)する。
貴様の首はスラムの連中に見せしめとして路上に晒す。
これであの馬鹿共も従順な働きアリになる事だろうな」
全身を黒衣に包んだ男は余裕をたっぷりと込め、見下した声質で語る。
だが、肝心のレイドは微動だにしない。
「どうした、恐怖で声も出せんか?」
しばらくしてレイドは静かに口を開いた。
「おめーよー、空気読めねーのかよなぁ?」
「何を言っている?」
レイドの口調も、声質も普段のそれとは明らかに違う、静かだが、その声には恐ろしいほどの憎悪が込められている。
まるで精神異常者が爆発する寸前のような、そんな感じだ。
「もう少しでよー、エルと心から合意の上でキスできるとこだったんだよおいよー、なー、それどころかそのまま一線越えて最後までヤれちゃいそうな雰囲気だったんだぜおいよーなーよー、なのによー……なのによー……」
立ち上がり、レイドの目がくわっと見開いた。
「何してくれとんじゃボケがぁあああああああああああああ!!!!!!!」
大気が、空間が激震した。
吊り上がる目は悪鬼のソレ、咆哮する口は竜のソレ、死刑囚一〇〇万人分の恨みを圧縮しても足りない程の憎悪を固めた叫びはもはや人の声を聞いているとは思えなかった。
数時間前にエルが橋でチンピラ兵士達を睨んだ迫力の八倍に相当する圧力にアサシンは腰を抜かして座り込んだ。
アサシンとは闇の住人である。
特殊な訓練を受け、感情を殺し、捕まれば迷わず自殺し、仮に死を止められても、あらゆる拷問に耐えられる、そんな機械のような、恐怖の超越者が今まさにレイドの前で腰を抜かして涙を流し魂を根こそぎ削り落とされていた。
レイドの右手がアサシンの顔をがっつり掴み、垂直に持ち上げる。
レイドはそのまま部屋のドアへと通じる廊下へ行き、自然とエルの死角に入る。
エルもその迫力に圧倒されて言葉を失っており、今もレイドが死角で何をしているのかを確認する勇気が無かった。
そして……
「テメエ! ナマで生きられると思ってんじゃねえぞ!!」
「ひぃいいいいいい!!」
「くおらっ!! てめえなんかこうしてこうしてこうしてやんよ!!!」
「ぎゃああああ! ぐあああああ!! ぬわあああああ!! ひぎいいい!!」
「全身の細胞削り潰してもまだ殺してやるかんな!!」
「あぐううう!! どうか許してー! 何でも言うからー! 何でもするかブゲラぼあぁあああああ!! ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
何をしているかも想像したくない、残酷なスプラッタBGMのオンパレードに顔から血の気が引いたエルの視界を、赤い肉片の塊が通り過ぎて、それは窓から外へと放り出されスプラッタ音は消えた。
「最強体液洗浄呪文(ファブリー・フレッシュ)!」
そんな声の後に廊下から綺麗なままのレイドが登場した。
「って、レイド! 貴様返り血はどうした!?」
「はぁ? あんなもん俺の最強体液洗浄呪文(ファブリー・フレッシュ)で一発だぜ」
驚愕に表情を彩ったまま、エルの顔は崩れない。
「いや、だからなんだそのふざけた呪文は!? そんなの聞いた事がないぞ!?」
「まあそうだろうな、何せこれは俺の親父が作ったオリジナル呪文体液洗浄呪文(マジック・リンエール)を俺が改良した呪文でな、色々とアレでアレな事をアレしてばっかだった親父が●●●●した後の処理を楽にするために開発して生物の体液を一瞬で分解洗浄、臭(にお)いも残さず一発で肉体をフレッシュしてくれるんだが俺のはさらに生物の体液以外にもローションや海水なんかも洗浄できるんだ。
だが所詮は改造、二番煎じだ、だから俺も負けじとさらに独自の研究の結果開発した体液や臭いを反射する体液反射呪文(ドメストレモン)てのもある。
ちなみに今は体に付着した体液やローションを乾かさず長時間潤ったままをキープできる乾燥防御呪文(マジカル・モイスチャー)を開発中でこれが完成すればヤリ過ぎの疲労感で事後処理をしないで寝てしまっても朝起きたら臭くなったり肌が荒れる事も無くな――」
「魔王☆ハンマー!」
ぶっ飛ばされたレイドが壁にめり込む。
「そんなくだらない事に魔術を使うな!」
レイドが壁から剥がれ落ちて、続き窓から別の影が入り込む。
「しくじったか、だがやつは最強のアサシンファイブの中で一番の小物、所詮はこの程度というわけか」
妖艶な美女の声にレイドが一瞬で跳ね起きた。
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