第23話 魔王はえらいなぁ

「俺は悪い奴以外は合意の上でしか抱かねえ、ましてエルならなおさらだ」

「な、何故だ……?」


 珍しく、間をおいてから、レイドの口が開く。


「エルの事が好きだから」

「!」


「悪党相手なら無理矢理楽しませてもらう、そうでない奴なら合意の上で抱く、だけど、エルには本気だから、ちゃんとお互いに好き合ってエルも望んだ上でないと抱きたくないんだよ、だから、俺はエルに誤解されたままなのも嫌だ」


「誤解?」

「そ、誤解だよ、エルさあ、俺が何か企んでいてお前を連れ去ったとか、性奴隷にするために連れ去ったとか思ってるだろ?」

「……違うのか?」


 レイドは頭から手を離し、腕で涙を拭うエルの側に腰を下ろした。


「常識で考えれば、魔王の一番の利用価値はその首を持ち帰って英雄の名を手に入れる事だ。

俺がもしも女が欲しいだけなら、お前を殺して英雄になってハーレム作ってるっての、もしもお前を犯してから首を撥ねるならお前の城でヤッてる」


「そうだ、そうすれば、お前は私を辱め、数多くの女を手に入れられるじゃないか、何でそうしない」


「お前の城で仲間に言ったろ?

 俺はな、英雄になったり、人間の美女侍(はべ)らせるよりも、お前一人のほうが欲しくなったんだよ、だからああやって仲間もぶっ飛ばして、その隙にお前を連れ去って、今もこうやってお前と大陸外逃亡の準備してるんだよ」


「うぅ……じゃあ何か、貴様は本当に私の事が好きで私と一緒に暮らしたいからこんな馬鹿な事をやっているというのか?」


「そういうこと、つっても信じられないだろうな、だけど俺は城で仲間に攻撃をした。

 今更お前を殺しても英雄にはなれない、英雄の称号なんかいらないって証だ。

 街の女の子みたいに作り笑いやよそ行き用の声で接しないのも俺自身を好きになって欲しいから、何よりも、エルは魔王の自分なんかとそんな事するわけないと思っているみたいだけど、俺の精神が常識じゃ計れないのは知っているだろ?」


「だが魔王と勇者が……そんな……私にだって人間への恨みがあるし……」

「人間に恨みってなんだよ? 戦争と何か関係でもあるのか?」

「……その通りだ」


 レイドに問われ、エルは力無く喋り始める。


「お前は知らないかもしれないが、魔族はずっと人間に弾圧されてきたんだ。

 人間は自分達とは違う存在、特に自分達よりも優れた存在を畏怖する。

 何百年も昔から、人間達は災害や飢饉といった、悪い事が起こる度にそれを魔族の呪いだと騒ぎ、何もしなくても、勝手に何かを企んでいるに違いないと我々の領土に攻め込み魔族を殺してきた。

 倒せば莫大な恩賞を受け英雄視される魔王はなんの罪も無く勇者達の標的となり、大陸中の勇者一行が私の家族を、魔族の中の王族討伐に現れた。

おかげで私の両親も、祖父母も殺され、兄弟達は生死も知れぬ状態だ。

特に先代魔王の我が兄は……」


 エルが歯を食い縛り、目に怒りの炎を灯した。



「人間に騙されて殺された! 魔王である自分の首を差しすかわりに魔族には一切手を出さないでくれと懇願し、人間達は兄の要求を受け入れたにも関わらず、兄の首を撥ねるとそれを人間の王達は自分達が魔王を討ち取ったと国民に流布して自らの権威と国民の反魔族感情を高めるのに使ったのだ!!

 そして我々が身を守るために人間と戦うと、人間達はあたかもそれが魔族側からの一方的な虐殺のように主張し、我々への差別や虐殺は年々酷くなるばかりだった。

 いつしか人間達はその数と情報網を駆使し、魔族を諸悪の根源というのを世界の共通認識にし、本格的な魔族の掃討にかかった!!

 最後の王族である私は魔王に就任するとすぐに民を守ろうとした。

だが私個人にどれだけの力があろうと広大な土地や何百万といる魔族全てを私一人で守る事はできなかった!!

だが、皆が私に言ってくれたのだ、一緒に戦おうと、自分達が支えると、そうだ、だから私は戦争をしたのだ!!

人間達に復讐するために、魔族の尊厳を取り戻すために、今度は人間共を殺し尽くし、魔族が世界の頂点に立とうと!!!

そう、私は魔族繁栄のために今度は人間を殺そうと思ったのだ、どうだ、これで少しは私の事が嫌いに――」



「エルは偉いなー」


 エルの渾身の訴えを、レイドはその一言で返した。


 予想だにしない反応に、エルは眉間のシワを緩めて困惑した。

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