第22話 魔王とラブホテル

 魔王エルバディオスを倒す前に、大陸中を冒険して周ったレイドは、同時に大陸中の洞穴や遺跡、古城に退治した悪党の根城、これらの財宝の類全てを持っていたため、所持金にはかなりの余裕があった。


 泊まろうと思えば、最高級ホテルのスイートルームにも泊まれるが、見た目が貴族でもなんでもない自分達がそんなところに泊まっては怪しまれると、エルの提案であえて二流ホテルに部屋を取った。


 そして、ホテル選びの際に当然……


「だからよー、ミュールのカカトで蹴ったら刺さるって言ってるだろ」

「貴様がラブホテルに入ろうとするからだろ!」


 部屋でテーブルに肘をつきながら額をさするレイドに、エルがそう怒鳴りつけた。


「だってホテルってラブホテルの略称だろ?」

「んな訳あるか! それはカップル限定で泊まる場所だ!」

「でも俺がガキん時家族旅行でラブホテルに泊まったぞ」

「は?」


 小首を傾げるエルにレイドは平然として、


「だからさ、親父が民宿よりラブホテルのほうが雰囲気出るからって言って――」

「待て待て待て! 寝る時お前どうしてたんだ!?」


「俺か? 俺は俺で親父と母さんがよろしくやっている間に海でマーメイドをナンパして部屋にお持ち帰りして親父と母さんの隣で人間形態にさせたマーメイド抱いてたぞ、確か一〇歳の時だったかな……次の日から同い年くらいの女の子と片っ端から、腕を上げたなって親父に誉められたぜ」


「一〇歳だと!? 貴様そんな時から性犯罪を……!」

「性犯罪とは失礼な、合意の上で無知な女の子に人生の幸せを教えたまでだ」


 ニカッと笑うレイドに、エルはもう諌める気も無くなって昨日から何度目になるかわからない溜息をついて、顔を伏せた。


「というわけで今度は魔族の女の子をお持ち帰りしちゃいましたってわけだよ」


 レイドがイスから立ち上がり、エルをイスの背もたれごと後ろから抱きしめた。


「だから、今夜は一緒に寝ような、エル」


 その瞬間、エルの顔に影が差し込み、口を開いた。


「……そうだったな……貴様はそういう奴で、そういう企みだったんだからな…………」


 それだけ言うと、エルは不意に立ち上がった。


「エル?」

 エルはレイドの腕から離れ、ベッドに向かうと次々に服を脱いでいき、最後には下着も脱ぎ捨て、一糸纏わぬ姿になると仰向けに横たわった。


 レイドに向かって僅かに股を開き、上半身を浮かせて手を胸にかざして、涙と一緒に訴えた。


「抱きたければ抱け! どうせ私は敗戦国の王だ! 勝者に逆らうつもりは無い!」


 いつものレイドならば諸手を上げて狂気乱舞するほど魅力的な状況に、だがレイドの表情は曇る。


「エル……お前何言って――」


「それがお前の目的だろ!? 今まで人間達を殺してきた魔王をただでは殺さず犯して辱める! 最初は殺すつもりだったが私の姿を、この体を見て欲望を抑えられなくなったか!? 勇者といえど所詮は人間! 貴様も地位や名誉のため自らの強欲を満たすために私を利用するつもりだったのだろう!?」


 徐々に熱を帯びて行く魔王エルバディオスの声は涙声の比率を高めてなおも続く。


「抱きたいんだろ!? 抱け! さあ抱け! そんなにヤリたかったら好きなだけヤればいいじゃないか! この汚らしい人間が!」


 目を泣き腫らす魔王に歩み寄り、レイドの手が頭に触れる。

 その瞬間、エルが恐怖でビクッと震えた。

 だが、レイドはそれ以上何もせずに、エルの頭を優しく撫でて、柔らかい笑みで語りかけた。


「こんなぼろぼろの女の子、抱けるわけねえだろ?」

「え?」


 と、エルの涙が止まる。

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