第18話 えぇええええええええええええ!?


 そこへ、もう鬱陶しくなってきた、もはやいつもと言えるかもしれない声が聞こえた。


「別にいいじゃねえかよ、俺たちはてめえら市民を守っている騎士様だぜ」

おさげの少女が「いやです、もう離してください」


さらにカチューシャの少女が「ちょっとあんたら急になんなのさ!」


「ふんっ! 我らランドーム騎士団を知らんとは可愛そうな女だ」

「じゃあ俺らの凄さをたっぷり教えてやるよ」


 眼鏡の少女が叫ぶ。


「誰か! 誰か助けてください!」


 当然誰も反応しない。

 そんなワンパターンな様子に、エルは溜息をついて眉根を寄せる。


「またあいつらか、あのような愚者がいなければこの街ももっと良くなるだろうに、レイド、ここはもういいから早く港へ……レイド?」


 傍らにいた筈のレイドが消えていた。

 嫌な予感がして三人の女子高生と数人の兵士達へ顔を向け直す。


「お嬢さん方、何かお困りですか?」


 白い歯をキラリと光らせてバカはいた。

 ブレザーを着た、おさげとカチューシャと眼鏡の女子高生三人は兵士の隙を見てすばやくレイドの背後に隠れる。


「助けてください、実は急にこの人が達に絡まれて!」

「そうですか、君たち、このお嬢さん方は嫌がっているんだ、すぐに立ち去りなさい」


 スポーツマンスマイルで優しく説き伏せようとするレイドに兵士達は怒髪をついた。


「なんだてめえ! 俺達に立てつこうってのか!?」

「俺達は泣く子もだまるランドームきしだぼろぼおおおおおお!!」


 レイドは剣を鞘から抜く事なく振り、一人の兵士の顔を鞘で殴打した。

 前歯を飛び散らせながら仰向けに倒れた仲間を見て、他の兵士の顔色がみるみる青くなっていく。


「王の権力を笠に着る賊が、私に敵うなどけして思うな! さあ引け! さもなくば正義の刃で貴様らを討つ!」


 迷い泣き瞳で言い放つレイドに恐れ、兵士達は仲間を引きずりながら、


『すいませんでしたぁあああああ!!』


 と言い残して走り去った。


「あ、ありがとうございます、なんとお礼を申し上げれば良いか」


 とおさげの子。


「あんた強いじゃん、マジ尊敬するよ」


 はカチューシャの子。


「本当に、見ず知らずの私達のために」


 眼鏡の子にはそう言われて、レイドはまた優しげな仮面を作り直す。


「はは、お礼なんかいらないさ、可憐な乙女を守るのは勇者の本懐だからね、さあ、今日はもうお帰り」


 背を向けたレイドを、おさげの女の子が呼び止める。


「ま、待ってください、せ、せめてお名前を」


 爽やかに振り返って、


「レイド・ラーシュカフ、ただの勇者さ」




「魔王☆ハンマー!」


 重さ一〇〇トンの大質量物質を脳天に叩き込まれて、レイドはアスファルトに顔からめり込んだ。


 大通りから横道にそれた場所だったので人はそんなに通っていないが、今の音で誰かが来る可能性は高い。


「おいおい、目立つから街中で異次元の蔵(ディメンション・ゲート)使うなよ」

「それは私のセリフだ!」


 頭から血を流すレイドに怒鳴りながら、エルは魔王☆ハンマーを異空間に収納する。


「名前まで明かして何が目立つ行動はするなだ! 結局女は助けてるじゃないか! まったく、言い訳ばかりしおって、どうせお前なんか女は無条件で助けても男はどうでもいいから見捨てているだけなのだろう!?」

「そうだよ」


 メリッ、とエルのつま先がレイドの額に食い込んだ。


「~~~~!」

「船に乗れなくなるとかマトモな理由はどこ行った!?」


 のた打ち回るレイドを見下ろすエルは、ある意味魔王級の迫力で睨み、レイドは冷や汗を流しながら立ち上がった。


「はは、悪い悪い、でも女の子に名前聞かれたらついしゃべっちゃうだろ?」

「しゃべっちゃうだろではない! まったくお前は――」

「助けてくれー!」


 またかと辟易しながら二人が振り返ると、兵士に追われた一人の少年が走ってくる。

 それは、あのグリーン少年である。


「勇者様!」


 そう言ってグリーンはレイドの背後に回りこもうとして、だがレイドはするりとかわした。

 グリーンが拍子抜けしている間に兵士が詰め寄ってくる。


「そこの貴様、そのガキをこっちによこせ!」

「いいよ」

「はいいいいいい!?」


 驚愕に叫ぶグリーンには目もくれず。


「別に俺らこのガキと関係ないし、こいつに用があるなら自由にすれば?」

「まま、まってくれよ勇者様! 俺あの兵士に追われてるんだよ!」


 あからさまに面倒そうな顔をして、


「おいおっさん、このガキ何かしたの?」

「ああ、そのガキが俺にぶつかっておきながら詫びの一つもいれずに逃げやがったんだ」

「おめーが悪いんじゃん」


 レイドに突き飛ばされてグリーンはたたらを踏んだ。


「ちょちょ、ちょっと待ってくれよ、絶対に謝っただけじゃ終わらないって、ほら、わかるだろ? 殴られたりとかさー」


 だがレイドは耳をほじりながら、


「えー、そんなの謝ってみなきゃわかんねーじゃんよ、ほいほい、さっさと行くぞエル」


 エルの肩を抱き寄せて歩き去ろうとするレイド、しかしグリーンは負けず。


「そんな事言わないでくれよ! なあそっちの綺麗なねーちゃんからも頼んで――」

「エルに触るな!」


 グリーンの手がエルの手に触れる直前に、グリーンは殴り飛ばされ兵士の足元まで吹き飛んだ。


「ったく、ガキが!」


 遠ざかって行く背中に手を伸ばそうとして、グリーンは兵士に首根っこを掴まれる。


「おい小僧、じゃあ俺の用に付き合ってもらおうか?」


 グリーンの顔から血の気が引いた。


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