第16話 世界一趣味の悪い街
「ここがランドームシティか、やっぱ進んでんな」
整備された街並みを眺めて、レイドは思わず感嘆の声を漏らした。
ひび割れなど無いアスファルト、オシャレな店や高層ビルが並び、広い道路には何台もの車が走っている。
行き交う人々の中にはボロをまとっている人は見えない。
全員が全員ではないが、暗い表情の人は少なく、楽しげにお喋りをしながら歩いている若者達もいた。
首都が安全かつ発展しているのは当然の事だが、魔王軍との戦争でどこも疲弊しているこのご時世に、このような光景を見れる場所はそう多くない。
だが、他の国の首都と比べて、ランドームシティは圧倒的に違う点があった。
はっきり言えば、独裁者主義丸出しなのだ。
ビルや道路など、そこかしこに建てられたランドーム王の看板、ポスターもそこら中に貼られており、時折銅像まで見かける始末だ。
「やれやれ、同じ王尽くしの街でもこちらは随分と悪質だな」
「んっ? 他に王尽くしの街があるのか?」
「ああ、我が首都には私のポスターや看板があり新商品などの宣伝をしている。
さすがに銅像の製作は断わらせてもらったが、私を使ったほうが商品が売れると各方面の企業が依頼してきたのだ。
そうしたら食べ物だろうが服だろうが新商品宣伝の写真の半分以上が私になってしまった」
「相変らずハンパねえ実力だな……って、何見てんだ?」
エルが熱い視線を向ける先にあったのはバスの停留所である。
停まったバスからは次々に人が降り、反対側のドアからは人々が列を成して入っていく。
「……乗るか?」
何も言わず、コクンとエルは頷いた。
魔王エルバディオスは、バスの一番後ろの窓側の席を陣取ると、窓の外を眺めて、少しすると今度はしきりにバスの中をきょろきょろと見回し、また外を見るという行動を繰り返していた。
ただ、その工程を行っている間中、エルの目は輝いており、きょろきょろする仕草も合いまって、その姿はひたすら可愛く見える。
自分でトラックを運転していた時とは違い、手の離れているレイドはそんなエルを愛でるような瞳で眺めて、その姿を堪能している。
「もしかしてバス初めてか?」
小声で聞いてきたレイドに、エルも小声で返す。
「ああ、魔族の街にこんな物、というよりも自動車そのものが無いからな、しかし人間の街にはほとんど来た事が無いがやはり珍しいな、あのランドームとかいう男の写真や銅像が無ければもっと景観が良くなるのに残念だ」
「バスや自動車が無いなら魔族は何に乗って移動しているんだ?」
「我々は昔からモンスターに車を引かせているからな、人間でいうところの馬車や牛車に当たるだろうな」
「へー、そうなんだ」
するとエルはふとうつむき、上目遣いにレイドの事を見てくる。
「と、ところでレイド、昨日乗ったトラックの時も思っていたのだが……その……自動車とはどのようにして動いている物なのだ?」
「へ? もしかして知らないで乗ってたのか?」
驚き口を半開きにするレイドに、エルは苦笑いを浮かべた。
「はは、まあ、私が読んだ資料には姿形と人間が魔科学で作った乗り物、というふうにしか載っていなかったからな、詳しい構造は知らん」
「そうだな」
と、頭を二、三度掻いてから、レイドは紙とペンを取り出して、エンジンの簡単な絵を書いた。
「スイッチを押すと魔術が発動してこれでエンジンスタート、後はピストンの内圧を風属性呪文の応用で調整、内圧が高くなるとこのピストンが上がって、内圧が下がるとピストンが下がる。
この一連の動きがギアに伝わって、タイヤが回転する仕組みだ」
「ほお、人間も考えたものだな、運搬はほとんどモンスターにやらせていた魔族はわざわざこんなカラクリ考えないからな」
「まあ、民族性や国民性の差だな」
『次は~~大通り~~大通り~~』
放送を聞いて、レイドはエルの肩を掴む。
「よし、次で降りるぞ」
エルが振り返ると、レイドは自然な笑顔をしていて、エルは素直に頷いた。
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