第12話 魔王とお泊り
(お前はどこの誰だ!? てかお前そんなキャラじゃないだろ!?)
だがレイドはキラースマイルを崩す事無く、
「そういえば、貴方がたは民宿をされているのでしたね、実は今夜泊まる宿を探しておりまして、お金は払いますから、よろしければ一晩泊めていただけますか?」
などと言っていた。
「そんな滅相も無い、命の恩人からお金など受け取れませんよ」
「そうですか?」
「はい、お父さんがこう言ってるのですから、勇者様は気にしなくていいですよ」
「それは助かります、そうだ、実は一人連れがいまして」
「おや、パーティメンバーの方ですかな?」
「ええ、おーいエル、今晩の宿が決まったぞ、早くこっちに来なさい」
手で口を閉めて、エルは引きつった顔のままレイドの元へと歩み寄った。
すると、当然といえば当然だが、中年男性はエルの姿を見るなり息を呑んで、目を丸くした。
「おお……これはまた、なんともお美しい…………」
確認するが、エルはレイドが魔王退治の地位や名誉を捨てでまで欲しがった少女であり、魔族中を魅了したスーパーアイドルである。
中年男性の娘など、あまりの美しさに思考が止まり、全身が硬直していた。
殺人的な美しさとはこういう事を言うのだろう。
レイドとエルはそのまま民宿へと入り、部屋へと案内される。
「では、この部屋をお使いください」
案内されたのは二人部屋として十分な広さがあり、街の貧しさに比べればキレイな部屋で、奥にベッドが二つ置いてあった。
「では、こちらの名簿に名前を」
用紙を受け取り、レイドは偽名としてレイード・ラシュカーフ、エル・ラシュカーフと書いた。
「おや、名字が同じですね、ご兄弟でしたか?」
「いえ夫婦です」
「はぁ!!?」
エルの顔が燃えるように赤くなり、レイドへ振り向いた。
「ちょっと待て! 私がいつからお前の――」
言い切る前にエルはレイドに抱き寄せられて口を塞がれる。
「いやー、妻は本当に恥ずかしがり屋でして、人前では他人のフリをしたがり結婚指輪もしてくれないのですよ」
言いながら腰のアイテムボックスからかなり高そうな指輪を取り出して見せる。
「そうでしたか、いやはや、夫婦でパーティを組むとは仲が良い、っで、奥様の職業は?」
職業魔王のエルバディオスは固まり、言葉に困っているとレイドが助け舟を出す。
「黒魔術師です。MPも呪文のレパートリーもそれはもう魔王かと思うほどの腕前なんですよ」
(いや、私魔王だし……)
「そうですか、ではごゆっくり」
部屋のドアが閉まって、レイドは性格のチャンネルを戻した。
「さあってと、ゆっくりさせてもらうとするかぁー」
鎧を脱いでアイテムボックスの中に吸い込ませると、テーブルの上に備え付けられていたコーヒーを淹れる。
「砂糖どうする?」
「魔王がブラック以外飲むと思うのか?」
「いや、今更魔王キャラ作られても困るんだけどな」
「ッッ……それより、なんで私がお前と夫婦なんだ!?」
「そっちのほうが詮索されないだろ?」
「だいいち、貴様一七で結婚など通じると思っているのか?」
「何言ってるんだよ、俺の国じゃ一〇代での結婚なんて珍しくねえよ、昔はもっと年いってから結婚してたらしいけど、戦争で平均寿命が短くなったら在学中に結婚したり学校卒業と同時に結婚て奴は結構いるぜ、男が戦地へ行く前にプロポーズしたりとかな」
「ほう、まあ人間は寿命が短いからな、ところで人間の学校とは何歳で卒業するんだ?」
「国や分野で変わってくるけど、俺のいた専門高校は一八で最終学年、一九で卒業だな、俺は飛び級で一七、今年卒業したけどな」
「専門高校?」
「ああ、戦士や術師を育成する高校、俺は勇者学科所属で主席合格、スゲーだろ?」
「その主席様が倒すべき魔王と逃避行とは、校長はさぞ嘆いているだろうな」
などとエルが皮肉を言ってもレイドは、
「ははは、校長は男だから嘆いても問題ねえよ」
と笑って返した。
エルは舌打ちをすると、
「シャワーを借りてくる、くれぐれも覗くなよ」
と言い残して部屋を出て行った。
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