第9話 魔王のお着替え
「ふふ……ふふふ……」
大鏡の前に立ち、魔王エルバディオスの顔からは笑みが吹きこぼれていた。
デニム地のミニスカートにピンク色のキャミソール、手には白いハンドウォーマーを通し、肩は露出させて、履物にはシルバーのミュールを採用した
モデルをやっていただけあり、鏡の前で色々なポーズを決め、どの角度からどう見えるのかをチェックしていく。
「いいなあいいなあ、人間の服もなかなかにオシャレではないか、いつものローブやゴスロリファッションも良いがこれも良いな」
最後に、丈の短いスカートの裾を少し持ち上げ、健康的なフトモモとレイドが選んだ純白の下着を鏡に映して頬を紅潮させる。
「う~ん、しかし、このスカートは少し短くて恥ずかしいな……激しく動くと見えてしまいそうだ……でも、気をつければ、うん、悪くないな……」
最後に子供っぽくVサインを決めて、魔王エルバディオスはドア付近の気配に気付き、顔を向けると……
「エルちゃーん、クソ人間の服が相当気に入ったみたいだなー」
にやにやと笑いながらドアの隙間から顔だけを出してこちらを見てくるレイドに、魔王の顔はたまらず羞恥に染まった。
「いいい、いつからそこに……?」
「最初からぜーんぶ、どうやらモデルやアイドルやってたってのは本当らしいな、ポーズ上手いじゃないか、なあなあもっかいやってくれよ、さっきの前かがみで上目遣いに見るやつさー」
「言うなぁああああああ!!」
空間から魔王☆ハンマーが召喚された。
それから、レイドは山賊のアジトにあった使えそうなアイテムと金品を片っ端からアイテムボックスに詰め込むとエルと一緒にまたトラックに乗り込んだ。
「それで、貴様は私を連れてどこへ行く気だ?」
「他の大陸だよ」
「他の大陸だと?」
エルに首を傾げられて、レイドはアクセルを踏み、トラックを発進させた。
「ああ、俺の目的はエル、お前と一緒に暮らせる場所を見つけることだからな、でもこの大陸は駄目だ、俺達の事を知ってる奴が多すぎる。
だから、俺らの事を知ってる奴がいねえ別の大陸に行って、そこで本名使って胸張って生きる。それが俺の目的だ」
「貴様、何を企んでいる?」
「そうだな、お前を俺に惚れさせて愛に溢れたエロライフを送ろうと企んでるな」
「……食えない奴め」
エルは鼻を鳴らして、視線を窓の外へと投げた。
辺りが夕日に染まる頃、山を降りたレイドは小一時間車を走らせ、地面がひび割れた荒れ放題のアスファルトに変わると徐々に速度を落とし、トラックを停めた。
「このトラック盗品だからな、こっからは歩いて行くけど大丈夫かなお姫様?」
レイドの冗談めいた口調に、エルは頬を膨らませて車を降りた。
「いくら闇の戦闘形態(アウゴエイデス)を破壊されたとはいえそこまで弱体化していないぞ!」
「いや、そうじゃなくてお前一応王族だし、フォークより重い物は持った事無いとかそういうタイプかなーって、歩くの辛かったらお姫様抱っこで運んでやるぞ」
「数時間前に私とあれだけの死闘を繰り広げておきながらよくもそんな事が言えるな、こんな男に負けたと思うと涙が出てくる。
言っておくが、私は今の状態でもそこらの人間の一〇〇倍は強いぞ」
言われて、レイドはアイテム袋からモノクルを取り出すとソレを通してエルを見た。
サーチモノクル:相手のパラメーターを見る呪文、サーチと同じ効果がある。
見ると、確かにエルはレベル九五と表示されている。
一般人のレベルは一なので確かにほぼ一〇〇倍だが、数字上一〇〇倍でも実際の強さはそれを遥かに上回る。
庶民一〇〇人が押し寄せてきても、おそらくエルは一撃で全員消し飛ばせるだろう。
どんなに弱体化しようと、魔王は魔王、エルことエルバディオス・フェレスカーンが歩き詰めで疲れる事は無いだろう。
「っと、そうだ、こっから先は人目に触れるだろうから髪と目、なんとかしないとな」
「色を変えるくらいのMPは残っているぞ、何色がいいのだ?」
「じゃあ俺と同じ黒にしてくれよ、おそろいおそろい」
ムスッとして、エルの髪は青に、目は緑色に変わった。
「髪や眼のペアルックなど誰がするか!」
唇を尖らせるエルの姿に、レイドが笑いかけた。
「素直じゃないな」
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