第8話 山賊VS鬼畜勇者



 山賊Dが言ったとおりの場所に、アジトは建てられていた。


 トラックでデコボコの傾斜を無理矢理登り、平らな場所に出ると、木々に囲まれた中に、隠れるようにして草色二階建ての家を発見、レイドはアイテムボックスに収納した鎧を着なおしてから周囲に見張りがいないことを確認すると、有無を言わさずドアを蹴破り中に侵入。


 中にいた男達は一斉にレイドに注目する。


 中にいたのはテーブルでポーカーをやっていた三人とテレビを見ている一人、そして着替えている最中で丁度ズボンを脱いでトランクス姿になっている男だった。


「てめえ、俺の家になんの用だ!?」


 ポーカーをやっていた三人組の中で、一際体の大きな男が立ち上がり、それを合図に他の男達も立ち上がった。


 どうやらその男がリーダーらしい。

   山賊のリーダーが現れた。

   山賊Aが現れた。

   山賊Bが現れた。

   山賊Cが現れた。

   トランクス野郎、もとい変質者が現れた。

「こういう用だよ!」


 レイドが剣を振る直前、急にレイドの剣の先端から光の刃が伸びて長くなる。

   レイド保有スキル、全体攻撃:MPを消費して通常攻撃に全体化特性がつけられる。


 一瞬にしてハイパーロングソードになった武器は一閃するだけで五人の男をまるごと切り倒し、部屋を血で染めた。


 その時の衝撃で天井近くに掛けられていた時計が落ちて、同時にその下の扉が開いた。


「何だ今の音がば!」


 時計は男の脳天を直撃、男は気を失った。

   敵の仲間が現れた。

   攻撃の余波がクリティカルヒット、山賊Dを倒した。

   戦闘に勝利した。


「よし、入っていいぞエル」


 レイドの合図でエルも家に入り、そして血まみれの部屋を見て嘆息を漏らした。


「戦時中なら当然か……」





 二人は二階に上がると盗品であろう箱の中身を物色、すると女物の衣類が入った箱を見つけた。


「おー、いっぱいあるな、キャミソールにタートルネック、ベスト、Tシャツ、一枚で重ね着してるように見えるギミック付きのも、色も結構豊富だな、エルどれにする?」


「あのなあ、ついここまで来てしまったが、私の異次元の蔵(ディメンション・ゲート)の中には魔力耐性付きの丈夫なローブだって入っているんだ、別に人間共の服など着る必要は無い」


 軽く睨んでくるエルだが、レイドは気にする様子は無く、


「でもこれから人間の街に行くんだから、魔族の服は目立つぞ」

「人間の街だと? 何故私がそんなところへ行かねばならん!? 悪いが私はさっさと貴様を殺して城へ戻り、魔王軍を立て直さなくてはならんのだ、貴様に付き合ってやる暇などない!」


「できんのか?」


 言われて、エルは口をつぐんだ。


「やれたらもっと早くにやってる、そうだろ?」


 図星だった、見透かされていたと、エルは諦めて口を開いた。


「その通りだ、私が最後に見せた黒竜の姿だが、あれはある一定以上のレベルに達した魔族がなれる姿で、形は個人差があるが闇の戦闘形態(アウゴエイデス)と呼ばれるモノだ。

 戦闘力が跳ね上がるが、代償として破壊されるとしばらくの間、力が低下する。

 正直、今の私には先ほど貴様らと戦った時のような力は無い、どうやったかは知らないが、既にある程度MPを回復させた貴様には勝てん……」



 エルが目を伏せると、レイドが答えた。



「ああ、あれか? あれは俺のスキルの力だよ」


 スキルとは生物が持つ魔術とは別の異能力の事だ。


 生まれつき持っている稀有な存在もいるが、ほとんどの場合は長い修行の果てに開花させるもので、普通の人間は持っていないのが当たり前である。


「俺は女の子成分を吸収してHPかMPを回復させるスキル《エロ根性》を持っているからな、最高の女と一発ヤれば骨折でも治るぜ」


「エロ根性って、そんなスキル聞いた事ないぞ……」


 疑惑の目を向けられ、レイドは唸った。


「う~ん、確かにスキル大全にも載ってないし、多分持ってるのって世界でも俺だけじゃないのか?」

「あまり聞きたくはないが、どんな修行をすれば身につくんだ?」

「いや、生まれた時から持ってた」

「エロ過ぎるだろ!! とは言っても、実際にあの時私の胸を触ってMPが回復したわけだし、信じよう……でも生まれた時からって目覚めるの速すぎだろ……」


 などとエルがブツブツ文句を言っていると、レイドがいつのまにか着る服を選び終えていた。


「まっ、ここにある服じゃ、俺的にはこれが一番かな……」


 広げられた衣類を見て、エルの顔が一瞬だけ明るくなった。


「やれやれ、まさかこの私がクソ人間共の布切れを纏う事になるとは、私も落ちぶれたものだな」

「いや、もうワイシャツとか着てるだろ」


 ツッコミをいれて、レイドがその場に立っていると、エルは眉間にシワを寄せた。


「おい、貴様はいつまでそこにいるんだ?」

「えっ?」

「着替えるから出て行けと言っているんだ」

「全部見せといて何を今更……」

「魔王☆ハンマー!!」


 ガシャンと派手に窓が割れて、レイドは家の外に放り出された。

 魔王☆ハンマーの衝撃で受身も取れずにレイドは頭から地面に落ちて、


「ぐえっ!」


 と、情けない声を上げてピクピクと手足を痙攣させた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る