第7話 ドジ魔王


「そういえば、何故私のサイズを知っているんだ?」


 それに対して、レイドはグッと親指を立てて爽やかに笑う。


「俺の眼にかかれば聞かなくても解るよ」


 直後、レイドの瞳孔が開き、エルの体を上か下まで舐めるように視線が動く。


「身長一六五センチ、トップバスト九一センチ、アンダーバスト六八センチのFカップ、ウエスト五九センチ、ヒップ八六センチ、胸の形は最も美しいと言われている見事なまでの半球型、かつ立派な巨乳だからバストをすっぽり包み込むフルカップ入りで全体が自由に伸縮するストレッチ素材を使用したそのブラジャーをチョイスしたぞ」


 寸分の狂いも無いレイドの見立てに驚きを隠せず、エルは渇いた声で笑った。


「ははは、お前勇者よりも下着のコーディネーターにでもなったほうが良いんじゃないのか?」

「おいおい、そんな誉めるなよ、しっかし、この荷台の衣類は男用の戦闘着ばかりだな」

「今は我が軍と人間の軍が激しい戦争をしている時期だからな、行商人も女物の服よりも戦いに必要な商品を扱うのは当然か……それで、全裸よりはマシだが、私はしばらく下着姿で移動か?」

「いや、代用品があるぞ」


 そう言ってレイドが取り出したのは黒いスニーカーとソックス、それとジーンズに白いワイシャツだった。


「男物だけど女が着てもおかしくないだろ?」

「いや、そんな事を聞かれても、魔族はこんな服着ないからわからんが、とにかく下着姿よりはマシだ、着させてもらおう」


 エルは最初にワイシャツの袖に腕を通すが、男物なので大きすぎて袖が余ってしまう。


「ストップ!」


 言われて、エルはズボンを拾う手を止めた。


「ど、どうしたんだ?」

「下着に大き目のワイシャツ……グッドだ」

「魔王☆ハンマー!」


 巨大な衝撃を頭に受けてレイドは倒れる。

 顔を上げて見ると、エルの手にはファンシーで可愛らしい装飾が施された巨大ハンマーが握られている。


「どっからそんなもん取り出した?」

「私は貴様のアイテムボックスのような物を空間に持つ、いつでもどこでも好きな時に異空間に入れておいた武装を取り出せる。このハンマーはその一つだ」


 エルが魔王☆ハンマーを上に持ち上げると、ハンマーは先端から順に空間へと消えていった。


「待てよ、なあエル、その武装の中に鎧とかあるのか?」

「勿論だ、私の持つ異次元の蔵(ディメンション・ゲート)には私自慢の百式魔王武装を収蔵している。


 その中には剣や盾は勿論のこと鎧やアクセサリー、ブーツに戦車などあらゆる武装が収められている」

 大きな胸を張り、自慢げに話すエルにレイドは立ち上がり告げた。


「じゃあよう、最初からその鎧着てれば俺に裸見られずに済んだんじゃないのか?」

「あっ」


 エルの顔面が硬直した。


「お前、忘れてたんだろ」


 エルは顔を真っ赤にしてプルプルと震えると涙ながらに大声で訴える。


「う、うるさいうるさい! しょうがないだろ!? だってお前こんな、魔王と逃避行なんて非常識な事するから! 私は! 私は……!」


 レイドの頭を殴ろうと手を伸ばすが、一八四センチの身長を誇るレイドの頭までは届かず、額をぼんぼんと叩く。


 その子供っぽい行動がまたなんとも可愛くて、レイドは思わず和んだ。


「わかったわかった、俺が悪かったよ、じゃあちゃんとした服手に入れるためにこいつらのアジトに行くぞ」


 レイドは荷台から飛び降りると運転席に座り、キーを回した。

 振り向いて、


「何やってんだよ、早く座れ」


 助手席を指で差し示し誘うレイドを見ながら、魔王エルバディオスは内心、怒りが収まらなかったが、今は我慢してレイドの言う事を聞く事にした。


(まったく、この男どこまで本気なんだ?)


 レイドがアクセルを踏んでトラックが発進するとエルはレイドの企みを予想し始めた。


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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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