第5話 勇者の当たり屋テク



 夕方も近づいた頃、山道を一台のトラックが登って行く。

 荷台には結構な量の荷物が乗っている。

 どうやら荷物を山の上に運ぼうとしているようだ。

 鎧を脱いで、タイトな黒い服とズボン姿になったレイドと、やはり全裸のままのエルバディオスは草むらからその様子を見ていた。


「おいレイド、こんなところで何を待って――」

「今だ!」


 言って、レイドは急に飛び出すとトラックにモロ撥(は)ねられた。

 鎧を脱いだ生身の肉体に重さ三トンの金属物質が直撃。

 レイドは無残にも五メートル以上も飛ばされて地面をゴロゴロと転がった。


(当たり屋か!? あのバカ何やってんだ!)


 魔王に心配される勇者はぴくりとも動かず、トラックからは数人の男達が降りてきた。


 ただ、その男達が作業着ではなく、ドクロや不吉な文字がプリントされた服を着て、髪は染めたり固めたりの手が加えられ、顔や腕にはピアスや刺青(いれずみ)をしている。


 どうやら運搬業者などではなく、山賊の類(たぐい)らしかった。


 男達は次々にトラックを降りて、レイドの元へ走った。


「やっべ、人ハネちったよ」

「どうするこれ?」

「まあ、ほうっておけばモンスターが食うんじゃね?」

「それもそうか」


 と、男達が全員レイドに背を向け、トラックへ戻ろうとした瞬間、レイドが急に立ち上がり、男達に襲いかかった。


 山賊Aが現れた。

 山賊Bが現れた。

 山賊Cが現れた。

 山賊Dが現れた。

 バックアタックに成功、敵は怯んでいる。

 

 レイドの高速の突きが立て続けに二人の男の背中を貫通し、最後に放った蹴りでもう一人の男の首を刎ね飛ばした。

 

 最後の男は状況を理解できず、レイドへ振り向く事無くいつのまにか地面にキスしていた。


「おいてめぇ、お前らのアジトはどこだ?」


 凄味を利かせた声に、山賊の若い男は抵抗する。


「そんな事誰が教えるかよ!」

「まあ待て、お前に一〇秒時間をやる、俺が指を全部折るまえに答えろ」

「へっ、指で数を数えたってうつ伏せの俺からは何も見えな――」

「一」


 ベキリ、と気持ちの悪い音と一緒に、山賊Dは手に走った激痛に悲鳴を上げた。


「言っただろ? 指を折るって、はい二」


 ベキリ、とまた鳴った。


「ぎゃああああ!!」

「はいどんどんいくぞー、三、四、五、六、七、はい残りさんぼーん」

「わかった! 言う、言うから、アジトはこの山道をまっすぐ行って分かれ道を右へ行くんだ、少し進んだら山道からはずれて左側の斜面を登れ、そしたらある!」

「ご苦労、ところであのトラックの荷台にあるのはどこから盗んできた?」

「あ、あれはヒッチハイクのフリして行商人からトラックごと……」

「じゃ死ね」


 冷たく言い捨てられ、山賊Dは泣き叫ぶ。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 俺アジトの場所言ったじゃねえか! ウソなんか言ってねえよ! 話が違うじゃねえか!?」


 だがレイドは落ち着き払って、冷厳な眼差しを突き刺した。


「は? 誰がアジトの場所教えたら助けてやるなんて言ったんだ? 俺はただ指を全部折る前に教えろって言っただけだぜ」

「て、てめえ騙しやがったのか!?」

「山賊に言われたくねえよ悪党共が」

「て、てめえ!」


 レイドの拳が男の首の骨を砕いて、男は絶命した。

 敵を倒した。

 レイドは経験値を手に入れた。


「いやぁ、今日も勇者らしい良い事したぜ……ちっ、これだけしか持ってねえのかよ、シケてんな」


 レイドは五〇〇ギルト手に入れた。


「って待てぇーい!!」


 草村から飛び出してきた魔王にレイドが一言。


「前隠さなくていいのか?」


 悲鳴を上げてまたうずくまる。


「貴様、これはどういう事だ!? お前は人々を救う勇者なのだろう!? なのに人間を殺しあまつさえ金品を奪うとは何事だ!」


 だが、レイドは悪びれる様子も無くボリボリと頭を掻いた。


「どういう事って言われてもなぁ、だってこいつら悪党だし、罪も無い庶民から巻き上げてるわけじゃねえし別にいいだろ?」

「いいわけあるか! 貴様はこんなっ……こんな酷い事をずっとやってきたのか!?」

「ああ」

「あっさり言うな! それでも勇者か!?」

「勇者って、勇者だからこんな事してんだろ?」

「むっ、それはどういう事だ?」


 魔王が頭上に疑問符を浮かべると、レイドはピッと指を立てて説明する。

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