第4話 騙されているぞ魔王!



「いや、お前絶対に騙されてるぞ!」


 するとエルバディオスは途端に柳眉を逆立てた。


「騙されてなどいない、実際私が二〇年前にこの仕事初めた時から我が軍は連戦連勝、特にグラダ山脈での戦いは勝てばドラマのキスシーンを中止にすると言っただけで予想を遥かに上回る戦果をあげたのだ」


「二〇年前!? グラダ山脈!?」


 二〇年前というのは魔王軍と人間軍の力の差が一気に開いた年である。


 そしてグラダ山脈の戦いと言えば学校の教科書にも載るほど有名な戦いで、人間の軍は魔王軍の二〇倍の数の兵を用意したにも関わらず、何故か魔族達に真正面からぶつかりそして一日で敗戦したという。


 僅かに生き残った兵士の話では、その時の魔族達は目を血走らせ息を荒げて魔王の名を口にしながら一瞬も休む事無く戦い続けたとされているが……


「あれお前の仕業か!?」

「その通りだ、私もキスシーンなんて絶対にやりたくなかったから、あの戦いに勝利した時は本当に嬉しかった。

それに私の写真集や日記はいつも二〇〇万部、国で刊行している魔王新聞や魔王マガジンは一千万部を売り上げ、消費税を廃止しそれ以外の税率を下げても以前を上回る国費が稼げているし、国民からの貢物も一〇〇倍に増えて城も潤っているのだぞ」


 余りに規格外過ぎる内容に、今度はレイドが唖然とする番だった。


 今までに戦ってきた魔族達の姿が走馬灯にように蘇り、全員へ対する評価が四天王達を中心にガラリと変わった。


「じゃあ何か、あの魔王親衛隊とかいう黒装束のやたらと強い連中は……」

「うむ、あいつらは兵士の中から任務とは別に個人的に私を守りたいという連中の集まりでな『魔王様萌え~』とか『魔王様マンセー』とか意味の解らない事をよく叫んでいたが、私によく仕えてくれた奴らだ。


 これもリヒターの考えた作戦のおかげだ」


「んっ、リヒター?」


 今まで何度か出てきた名前に、レイドはようやく脳が回転し、彼の意識は三時間前に飛んだ。


 そう、あれはエルバディオスのいる最上階へ行く一つ前、敵を迎え撃つ大きな部屋の中央で待ち構えている男が自分の事をそう呼んでいた。


 リヒターは魔王を守る最後の砦に相応しい実力を持っていた。


 ただ一つ、戦っている間にやたらと魔王のためにと連呼するのがうざかった。


 レイド以外の仲間三人は結構な傷を負っていたので僧侶にポーションを使い、他の二人の回復をさせている間に敵が来ないか見回りに行った時、レイドは見つけたのだ。


 リヒターの部屋、と書かれた部屋の扉を……


 中に入ると部屋一面がとある美少女一色に染められていた。


 壁中に貼られたポスターにカレンダー、ヌイグルミにフィギュア、あらゆる家具とタンスの中に入っていた衣類にはその美少女の顔がプリントされていた。


 極めつけは、引き出しの中で見つけた《私の愛するプリティ・エンジェル日記》というタイトルの分厚い日記帳だった。


 内容は今思い出しても恐ろしい。


 ベッドのシーツと毛布、枕と抱き枕にもその美少女の姿がプリントされているのは言うまでも無い。


 そしてテーブルの上には作りかけのドレスが置いてあった。


 今思い出してみれば、その部屋を埋め尽くしている美少女はエルバディオスその人であった。


 意識が現在に戻り、レイドは顔を強張らせた。


「あのよう、もしかしてそのリヒターって、お前の着る衣装、手縫いしたりしてたか?」

「よく解ったな、その通りだ、あいつは家庭教師と私のマネージャーをやりながらデザイナーとしても活躍していたからな」


 呆れすぎて溜息も出ないレイドは、ふと、恥ずかしそうに手で胸や股を隠す魔王を見直してた。


「おい、ところでお前ビキニ以上の露出をした事が無いって言っていたけど、ビキニにも色々あってだな……」


 それからレイドにとある事を言われると、エルバディオスはさらに紅くなって声を張り上げる。


「アホ! 誰がそんな……ほとんど裸みたいな物着るか! そんな物は水着ではない、私はちゃんと隠すべき場所を隠した物しか着た事がない! 本当だ!」


 ムキになって主張する魔王に可愛さを感じながら、レイドは振り返った。


「ほんじゃ、そろそろお前の服調達しに行くか」

「なんだ、この辺に店があるとは思えんが、知り合いでもいるのか?」

「まあ見てろって」

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