第3話 魔王のエロハプ


 魔王城の周りを囲う魔王の森に着地してから一時間、レイドは突風のような速さを落とす事無く走り続け、近くの山を越え始めていた。


 抱えられた魔王エルバディオスが振り返れば、自分の魔王城はもう随分と遠くにあり、何故か実際よりももっと遠くに感じられた。


「さてと」


 ようやく、レイドのスピードが徐々に落ちて、しばらくすると山の比較的傾斜が緩やかな場所で立ち止まり、エルバディオスを下ろして回復呪文を掛け始めた。

 草の上に腰を下ろし、両手を腰の横に下げて、エルバディオスはレイドに傷を癒してもらいながら、これまでの経緯を脳内でまとめた。


 

 自分は魔族達の女王エルバディオス・フェレスカーン。

 大陸征服を目指す魔王で人類の敵。

 人類は自分を憎んでいる。

 魔王エルバディオスは倒すべき敵というのは人間なら五歳の子供でも知っている常識。


 レイドは勇者で魔王である自分を倒すために立ち上がった人類代表。

 自分はレイドに倒された。

 だけどレイドは極度の女好きで自分に惚れたから殺すのをやめた。

 そして自分を嫁にするべく仲間と地位や名誉を捨ててこの森まで逃走……



「って、信じられるかぁ!!」


 怒喝を飛ばして、エルバディオスは回復処理の終わったレイドが血走った目で自分をガン見している事に気付いた。


「なんだ? 何か私に変なところでも……」


 自分の体に視線を落として、エルバディオスは絶句した。

 確認するが、今のエルバディオスは全裸である。

 そしてレイドの方を向いたまま腰を下ろして、手は体の横、足は広げた状態で草の上に座っている。


「!!?~~~~ッッッ~~~~!!!!???」


 エルバディオスの脳内で火山が噴火して、首から上は耳まで爆発しそうな程紅くなった。

 汚れを知らぬ少女のような悲鳴を上げて、両手で見られたくない場所を隠せるだけ隠してその場にうずくまった。


(み、見られた……アレもコレも全部……うぅ、死にたい……)


 恥ずかしさのあまり、魔王は涙で目を潤ませる。


「あれ、魔王でも裸見られると恥ずかしいのか?」


 うずくまっているため、首だけを動かし、上目遣いにレイドを見上げてエルバディオスは声を張り上げる。


「当然だ! 私をそこらの恥知らずの痴女(ちじょ)や娼婦と一緒にするな!」

「そうなのか? 俺はてっきり魔王なんだし裸を見られても堂々とした感じかなって」

「バ、バカにするな! 私はそんな謹みを知らぬ女では無い! こう見えても私は家族以外の男にはビキニ以上の肌を見せた事が無いのだぞ!」


 魔王の以外な貞淑さに驚きつつ、レイドは当然の疑問を口にした。


「っで、魔王のお前がビキニなんて着るのか?」

「むっ、そんなもの、海へ遊びに行った時は四天王達や家庭教師のリヒターが用意した水着を着たし、新作の水着ができると私が着てスタジオで撮影――」

「ちょいちょいちょい!」


 まだ喋っている途中の魔王に手をかざし、レイドは中断させて恐る恐る問うた。


「えっと、スタジオとか、新作の水着って、お前普段は何してるんだ?」


 当たり前の疑問に、だが魔王エルバディオスは首を傾げ、腕で胸を隠したまま上半身を上げてレイドと向かい合い、最近のスケジュールを思い出した。


「んっ? 魔族の王としての行政や事務仕事……あとはドレスや水着、流行の服を着ての撮影やインタビュー、魔王新聞の一口コラムや魔王の悩み相談室の執筆、あと不定期にサイン会や握手会、各施設を回り交流会を開いたりもしているな」

「お前のほうが魔王らしくねえよ!!」

「なっ! 貴様のほう勇者らしくないだろう! あんな簡単に仲間を見捨てるとは何事だ!」

「そんな事よりなんだ最初の二つ以外の仕事は!? 他の国の王様はそんな事してねえぞ!」

「わ、私だって最初はしていなかったが家庭教師のリヒターの思いつきでな、軍費の調達と国の士気を高めるためにだな……私だって自分の水着姿を撮影されるのは凄く恥ずかしかったんだぞ! でも、これも国や愛する国民のためと、我慢して……」

「いや、お前絶対に騙されてるぞ!」

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