第3話 出会い


 銀鉢市、銀鉢幼稚園。その玄関には、数多くの親子連れの姿が目立った。


 入園式の今日は、どの子もその子も嬉しそうにハシャぎ、母親や父親も幸せそうだ。


 そんななか、例外的に不安でいっぱいの女の子がいた。


 まだ個体差の少ない三歳児たちのなかで、明らかに異常なほどに目立つ子だった。


 まず髪が白い、純白だ。肌も、西洋人よりも白い。目もウサギのように赤いし、身長だって他の子より頭半個分は大きい。


 外国人ではない。ただ、生まれつき体の色素が薄い、アルビノという体質なだけだ。


 この容姿のせいで、保育園ではいつも仲間外れにされていた。いつもお母さんの足にしがみついて、お母さんの陰に隠れて、お母さんとしか遊んだことがない。


 いまも、お母さんの足にしがみついたまま離れようとしない。


 母親は一生けん命に娘を励ますが、白い幼女は目に涙をうかべてぷるぷると顔を振った。


「やだよぉ、またおなじだもん、おうちに帰りたいよぉ」

「ブーン♪」


 その横を、両手を広げて飛行機のマネをする女の子が通り過ぎた。体は妙に小さいが騒がしく、彼女は彼女で目立つ子だ。


 飛行機幼女のうしろを、楽しそうにその母親が追いかける。いまの子の十分の一でもいいから自分の娘も明るくなって欲しい。白い幼女の母親は、そう願うのだった。


 対して白い幼女は、自分のようにびくびくと震える男の子を見つけて『あの子も怖いのかな?』とか考えていた。飛行機幼女のように、やたらと体の小さな男の子だ。母親に無理矢理引っ張られている。


 その男の子を見て、白い幼女はますます不安になる。『やっぱりここは怖いところなんだ』そんな気持ちがこみ上げてきた。


 もう一度母親に帰ろうと言うべく、白い幼女は口を開けた。そのコンマ一秒後。


「おいお前、足につかまったら母親が歩きにくいだろ、離せよ」


 ぐおっと、大きな手が白い幼女の腕をつかんで引きはがす。


 白い幼女はびっくりして振り返ると、すぐに見上げた。


 そこには、ランドセルが似合いそうな男の子が立っていた。その後ろには、とても綺麗な女性が立っている。きっと男の子の母親だろう。


 白い幼女が視線を男の子に戻すと、男の子は眉根を寄せてこちらの顔を覗き込んでくる。


「お前、なんで泣いているんだ?」

「うぅ、だ、だって帰りたいんだもん」

「なんで?」

「だってわたし大きくて目立つし、きっとまたなかまはずれにされるから」


 他の園児より頭一つ分以上も背の高い男の子は、白い幼女の頭に無造作に手を置いた。


「大きい? どこが? いいから、子供が親に迷惑かけるなよ。行くぞ」

「ふえっ、あ、あの……」


 男の子に手を引かれ、白い幼女はどんどん母親から離されてしまう。


「お前名前は? オレは夜神(やがみ)悟理(さとり)」

「わ、わたしは月城、月城(つきしろ)美涼(みすず)」

「そうか。それでお前なんで髪白いんだよ、目も赤いし」

「んと、生まれつきこうなの。変、だよね?」


 美涼は不安そうな声で悟理を見上げるが、悟理は無表情だ。


「平均から外れているから変だとは思う。でもウサギみたいで俺は好きだ」

「へいきん?」


 よくわからない言葉を使われて、美涼は理解が追いつかなかった。それでも『好き』という単語を使われるのははじめてで、少し嬉しかった。けど不安な気持ちもあって、二つがないまぜになって、美涼はどうしたらいいかわからなかった。


 美涼と悟理のうしろを歩きながら、二人の母親は喋る。


「すいません、うちの子、本当に臆病で」


「いえいいんです。それと、うちの子と同じクラスなったら、きっとうちの子が守ってくれますわ。だってあの子、夫と将棋を指す時と同じ顔だったもの。美涼ちゃんの不安を取り除く方法を考えているんだわ」


 悟理の母親の言葉に、美涼の母親は理解が追いつかなかった。


「え? 将棋?」


 子供同様、母親同士の会話もかみ合わなかった。

   

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