第2話 未来の幼馴染


 これは、幼馴染との物語ではない。友達が幼馴染になり、幼馴染が家族になる物語だ。

 

 朝早(あさはや)朝俊(あさとし)三歳は、今日という日をキリンのように首を長くして待っていた。


 今日は待ちに待った幼稚園の入園式。


 一週間以上も前から毎日袖を通し続けた水色の幼稚園服と黄色帽、幼稚園鞄は、三種の神器もかくやと言わんばかりにリビングに掲げられている。と言ってもただ壁からつりさげているだけなのだが。それでも、朝俊には宝物と同じくらい大切な物だった。


 〇歳から一緒に過ごす幼馴染と保育園に通うたびに見かける、あの三種の神器を身に着ける子供たちがむしょうにカッコよく見えたのは気のせいではない。


 母親に『ぼくもあれしたい』とおねだりをするたびごとに『あんたは来年からね』と言われ続けた。


だが朝俊は今日、ついに三種の神器を合法的に身に着けることができるのだ。


 一週間前から身に着けてはいるが、入園前なのでコスプレだ。鉄道オタクが車掌の格好をするようなものだ。でも朝俊は今日、本物の幼稚園児になれるのだ。


 いつもはお母さんに起こされる寝ぼすけな朝俊は、今日ばかりは二〇分も早く起きた。朝ご飯を食べて、最高の気分で三種の神器を身につければ、もう何でもできる気がした。気分は変身を完了させたヒーローだ。


 リビングの鏡に自身の姿を映そうとした直後、外から可愛らしい声が聞こえた。


「あさとしぃー」


 朝俊の家は一軒家で、リビングから掃き出し窓を通じて庭へ繋がっている。


 庭の先はお隣さんの庭で、やっぱり掃き出し窓を通じてリビングに繋がっている。


 お隣さんのリビングには、朝俊と同じぐらいの年の女の子がいた。同じく三種の神器を身に着ける彼女は東雲(しののめ)花憐(かれん)。綺麗な赤毛を右側でワンサイドアップにした、笑顔の可愛い女の子だった。


 花憐と朝俊は、両親が親友同士だ。〇歳の頃からよく同じベビーベッドで寝かされた。


 お互いに一番古い記憶がお互いの顔という、親が聞いたら落ち込みそうな関係だ。


「えへへー、似合うでしょー♪」


 花憐は無邪気にその場で一回転。朝俊は弾む心をそのままに『うん』と大きく頷いて、頷いてからくだらない事をする。


「ねぇねぇ」


 三歳児の朝俊よりもずっと大きい掃き出し窓に、ぶにゅっと顔を押しつけて変な顔をする朝俊。それを見て花憐はコロコロと笑う。花憐も窓に顔を押しつけて変な顔をした。朝俊もコロコロ笑う。


 今のうちからネタバレをしよう。壮大なネタバレだ。この二人は将来結婚する。幼馴染同士の結婚だ。ただし、現段階ではまだ幼馴染ですらない。


 幼馴染を『幼い頃からの親友』と定義するならば、今現在が幼い二人は幼馴染ではない。ただの友達だ。だから読者諸君には、そも幼馴染というものがどのようにして生まれるのかを見守って頂きたい。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【電撃文庫】から【僕らは英雄になれるのだろうか】昨日発売です。

 カクヨムで試しい読みを20話分読めます。

 また、アニメイトで購入すると4Pリーフレットが

 とメロンブックスで購入するとSSリーフレットがもらえます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る