第10話

家の中は相変わらず暗い雰囲気が立ち込めていた。


お父様とお母様もあの日の口論から少し気まずいようで、必要最低限の会話しか無くなっている。


本当なら娘の私が間に入って取り持ってあげるべきなのかもしれないけれど、私も学校でのことで疲れ切っていて、そっちの問題まで抱え込むことができなかった。


「はぁ、やっと今日が終わったわ。」


(それにしてもリリーちゃん、可愛かったな。)


それにシンシアさんに抱きしめられて・・・久々に人の温もりに触れた気がして胸が熱くなった。


かつてはお父様とお母様も人並みには私を愛してくれていて、それなりの家庭を築いていた。でも、今ではみんなが自分のことでいっぱいいっぱいで、家族の絆など見る影もない。


そのことに寂しさを感じるけれど、どうしたら元に戻るのかがわからない。


(やっぱり、私が裕福な家に嫁ぐしかないのかしら。)


そうすれば、いつかお父様とお母様に「あの時は苦労をかけたね」なんて微笑みかけてもらえるかもしれない。


そんな淡い期待を抱いて眠りについた。




今日はまたしても不思議な夢を見た。


今度登場しているのはリリーちゃんだ。もちろんこの家が舞台で。


リリーちゃんは私と同じ一人っ子で、お母様が銀髪のよう。とても美しい人でリリーちゃんのことも心から愛していたみたいだ。


お父様も情熱的な人で奥さんとリリーちゃんをとても大事にしているのが見て取れる。


(いいなあ・・・)


幸せそうな家族を見てまたしてもそんなことを思ってしまう。でもなんだか今のは#シャロン__私__#以外の誰かと思いがシンクロしたような感覚があった。


その感覚を不思議に思いつつその一家を見守る。


3人は幸せそうだけど、あまり裕福ではなかったみたい。


この時、既にこの家は訳あり物件で、お父様が必死に働いているけれどお金がなかったリリーちゃんの一家は、自分たちでリフォームする前提でここに住み始めた。



大変な生活でも笑顔が絶えないリリーちゃん一家。誕生日にはお父様が無理をして豪華な人形セットをプレゼントしていた。


それを心から喜ぶリリーちゃん。その様子に暖かい気持ちになる。


そんなある日リリーちゃんが、2階にある自分の部屋で遊んでいた。誕生日に買ってもらったお人形セットで。


(楽しそう・・・一緒に遊べたら良いのに)



そう思った#私__・__#は、手に持っていた風船をそっと離した。


その風船はリリーちゃんの部屋の窓まで飛んでいって、屋根の一部に引っかかって止まった。それを見たリリーちゃんは風船を取ろうとして窓から乗り出し・・・ー




私はハッとして飛び起きた。


(またなの・・・?)


嫌な汗が背中を伝う。あの夢の後のことは考えたくもない。


一体この夢はなんなのだろう。ただの夢というにはあまりにリアルな情景だった。


でもシンシアさんもリリーちゃんも先日会ったばかりの人たちだ。だからあの夢が現実のことだなんてことはあり得ないだろう。



すっかり目が覚めてしまった私はそう考えて窓辺に座った。まだほんのり暗い外に、朝が来なければ良いのにと思う。


「はぁ、家でも学校でも休まらないわ。」


そうため息をついて、せめて体だけば休ませようと再びベッドに横になった。






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