第9話
今日も何とか1日を乗り切って家へと帰る。
すると、家の庭から小さな女の子の笑い声が聞こえてきた。
(また家に誰かいるのかしら?)
「そこにいるのは誰?」
そう言って庭を覗き込むと、アンソニーとは少し色味の違う銀髪のおさげの女の子が遊んでいた。
「ここで何をしているの?お名前は?」
女の子は突然話しかけた私をキョトンと見上げた。まだ4、5歳くらいだろうか。
「私リリーよ。お花をつんでいるの。お姉さんは?」
「私はシャロン。この家に住んでいるの。ここは私のお家の中だから勝手に入ってはダメよ?一言声をかけてね。」
こんな小さな子に言っても分からないかもしれないけど、言うべきことは言わなくちゃ。そう思った私はリリーちゃんの目線に合わせて屈んで優しく注意をした。
「リリー!それにシャロンさんも!」
すると後ろから明るい声をかけられる。振り返ればその声の主はシンシアさんだった。
この間彼女の姿で嫌な夢を見てしまったから少し気まずい気分になる。
「ごめんなさいね。この子ったら、こんな所にいたなんて。ほら帰りましょう?」
「かえる?でもここが・・・」
「あっ、シャロンさんにはまた勝手に入ってごめんなさいね。いつかお詫びさせてくださいな。」
「いえ、それよりこのリリーちゃんは、シンシアさんのお子さんなんですか?」
「いえ、私に子供はいないわ。訳あって面倒を見ている親戚の子、って感じかな?まあ、自分の娘みたいに可愛いけどね。」
そう言ってリリーちゃんを抱きしめたシンシアさんに、リリーちゃんも幸せそうに笑う。その微笑ましい姿に羨望を抱いた。
(昔はお母様も優しくて穏やかで、私を抱きしめてくれたっけ。)
そんなことを考えていたら、シンシアさんが私を手招きする。
「何ですか?」
その手招きに応じて近づけば、ガバッと私までシンシアさんに抱きしめられた。
「シャロンちゃんも、リリーのお姉ちゃんになってくれないかしら?」
突然の温もりに頭がついていかなずに固まっていると、シンシアさんからそんな提案をされた。
「私が、お姉ちゃん?」
「そうよ。リリーもきっと喜ぶわ、ねぇリリー?」
「私のお姉ちゃんになってくれるの?」
そう見上げて来るリリーちゃんは天使のように可愛い。
「っえ、ええ。私で良ければ。」
「ふふ、やったー!アンジェとは仲が悪いから仲良しのお姉ちゃんが欲しかったの。」
純粋に喜んでくれるリリーちゃんにこちらまでほっこりする。私もずっと一人っ子で寂しかったからこんな可愛い妹ができるなら願ったり叶ったりだ。
でもひとつだけ引っかかるワードがあった。
「アンジェって?もう1人お姉ちゃんがいるの?」
「うーん、どちらかというと妹かしら?」
「アンジェは嫌い。私のものを何でも欲しがるの。」
「まあまあ、そんな事を言ってはだめよ。アンジェは貴方が楽しそうに遊んでいるから羨ましくて貴方のものを欲しがるの。だから一緒に遊んであげましょうね?」
「むー」
まだ納得していない様子のリリーちゃんだが、拗ね方も可愛らしい。
「ふふ、私もシンシアさんの家の娘になりたいわ。きっと幸せなんでしょうね。」
「それは・・・どうかしらね。私自身の子供はいないし、リリーやアンジェの面倒も手探り状態よ。」
「あっ・・・」
少し寂しそうに俯いたシンシアさんにやってしまったと思った。シンシアさんは会うたびに私が欲しい言葉をくれるのに私はシンシアさんが気にしていることに触れてしまった。
「ごめんなさい・・・私・・・」
「あら、気を遣わせてごめんなさい。そんなつもりじゃないから気にしないで。」
「でも・・・」
「うーん、じゃあひとつお願いを聞いてくれないかしら?」
「ええ、私にできることなら。」
「私たち、ここに誰も住んでいない頃よくこの庭に遊びに来てたのよ。だから私もリリーも勝手に入る癖ができちゃって・・・」
「そうだったのね。」
「だから、ここの庭までは自由に出入りさせて貰えないかしら?」
「うーん・・・そうね、それくらいなら大丈夫。もうお父様かお母様に見たかったら私が許可したと言ってちょうだい。」
許可して良いか迷ったものの、この家の庭というのはほとんど手入れのされていない空き地も同然だ。
囲いも所々崩れていて、あってないようなものなので初見の人はここが屋敷の庭だとは思わないだろう。
それならばいいかと思って承諾すれば、シンシアさんは顔を綻ばせた。
「まあ!ありがとう。シャロンさんはとっても優しいのね。」
「・・・そんな事ないわ。」
最近は特に擦れてきたのもあるけれど、本当に私は優しくなどない。シンシアさんのような性格だったら、もしかするの今の私の状況でももう少し幸せになれたのかしら。
そんな事を考えているとシンシアさんに声をかけられる。
「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね。帰宅したばかりのところ引き止めてごめんなさい。」
「いいえ、またいらしてください。リリーちゃんも、またね。」
「うん、ばいばいお姉ちゃん。」
そうして私は2人と別れて家へと入った。
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