第8話

翌朝、今日は学校に行かなければならない。


(もっとお休みがたくさん有れば良いのに。)


重たい気分を引き摺りながら学校へと向かう。結局、お父様にもお母様にも教科書のことは言えず仕舞いだ。


自分で何とかするしかない。そんな思いで教室のドアを開けた。



ここではアリアの権力が強く、皆が彼女の機嫌を取っている。それは教師ですら例外ではない。


「それじゃあミス・オルドリッジ。176ページを読んでくださる?」


「・・・すいません、教科書が破れてしまって読めないんです。」


丁度そのページはアリア達に破られて読むことができなくなってしまった場所だった。


「・・・そう、仕方ないわね。ではミス・エマーソン、ミス・オルドリッジに見せてあげてくださる?」


「嫌です。」


「なっ・・・ゴホン。ではミス・パーカー・・・」


「嫌でーす。」


「・・・・・・はぁ、分かりました。ではミス・サンチェス。貴方が読んでください。」


「ふふ、分かりましたわ。」


先生は私に教科書を貸し出す令嬢がいないと見て、私に読ませる事を諦めた。嫌がらせを受けていることは明らかなのに、私のためになど何もしてくれはしない。


分かっていたことだけれど目の当たりにすると辛いものがある。


私は悔しく思いつつもアリアが読む破れた部分の内容を必死にメモした。





そうして地獄のような昼休みがやって来る。


「ねえ、貴方まだ通い続ける気なの?」


「貴方みたいな家の方が学校を出たからと言って、将来に希望があるとは思えないけど。」


毎日毎日飽きないのかしら。私は負けじと嫌味を言ってくる令嬢たちを睨み返した。


「なぜ貴方たちに指図されなければならないの?」


「別に指図なんてしていないわ。私たちはただ心配しているのよ。貴方が無駄なことに時間を費やしているのではないかと思って。」


そう言って笑う令嬢たちに腹が立つ。でも、もしかしたら彼女達の言っていることの方が正しいかもしれない。


自分の中にそんな不安がある。


「まあまあ、ここまで頑張っているのですもの。応援して差し上げましょうよ?」



そう言ったのはアリアだ。彼女がこの地獄の原因だというのに、微笑む姿はまるで女神のように美しい。


(なんて不公平なのかしら・・・)


お金もあり美人で、かつサンチェス家は娘を溺愛していると聞く。こんなに性格が悪くても見た目は天使だし、何もかも恵まれている彼女が羨ましい。



「まあ、流石アリア様はお優しいわ。」


私は取り巻き達が彼女を持ち上げているのを冷めた目で見つめた。


「ふふ、それに私に良い考えがございますの。」


そう言って彼女達は内輪での話に夢中になり始めた。私はそれを好機と見てそっとその場から逃げ出す。


彼女の"良い考え"には嫌な予感しかしないけれど、私がこの場に残ったことで何も変えることはできないだろう。


そう思って人気のない裏庭で昼食を摂った。



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