3話

私の名前は疏楽。読み方はソラ。

私の一番上の兄さんは宙。読み方はソラ。

何で兄弟なのに同じ読みの名前なんだろう。同じクラスの子に兄弟と同じ読みの子なんていないのに。



また雲に乗り、門を抜けて家の前に着く。何だか緊張してきた。お隣さんに見つからないかな?

「今お前は透明だ。見つかりはしないさ。」

そう言う問題じゃないんだけど。

私は部屋に入り、宙兄にもらった首飾りを持って、ツクヨミのところに戻る。

「持ってきましたよ」

首飾りを見せる。UVレジンで作られた金の部分が月光をうけ、きらきらと輝いた。ツクヨミは、一瞬驚いたような顔をしたけど、またいつもの顔に戻って、「じゃあ早速始めるぞ」

と言って、私は強制的に雲に乗せられたのであった。


「あ、そうだ、お前、誕生日いつだ?」

帰っている途中、ツクヨミがそんなことを聞いてきた。

「え、1月14日です」

「そうか、じゃあまだか」

今日は8月13日なので、半年ほど後になる。それがどうしたのだろうか?

「あ、今から俺をツクヨミさんと呼べ」

あ、はい。いつも急ですね。


門を抜け、さっきまでいた館に入る。そこで女中っぽい人が待ち構えていて、わたしを白装束に着替えさせた。そのあと、すぐに大きな部屋に入れられた。なんなのだろう?

首飾りを握りしめて、ちょこんと座っていると、ツクヨミとアマテラスが来て、アマテラスが言った。

「今日、新たに子神が入る。その名はソラ。依代をこちらに渡せ。」

そう言われたので、仕方なく渡す。それに、アマテラスは札を貼った。

「ちょっと、何するのよ!」

「これにて、ソラの依代が決定した。」

アマテラスが札付き首飾りをツクヨミさんに渡した瞬間、アマテラスの指先が割れた。ガラスのように、パキッと音を立てて。

「終焉ね。」

そう言って、にこりと笑った。

「ツクヨミさん!」

私はツクヨミさんに必死でしがみついた。目の前で人が崩れているのだ。そのぐらい当たり前だろう。毎回毎回急すぎんのよ。

「アマテラス!」

「じゃあ…がん…ば」

アマテラスの笑顔がくずれ落ちた。

「きゃあああああああっ」

流石に怖い。誰だってこれを見たらトラウマになる。

「アマテラスさん…」

「誰か!花!」

ツクヨミさんが叫んだ。その5秒後、女の子が入ってきた。

「ツクヨミ様!」

「アマテラスが終焉された。今からソラが、アマテラスだ」

「しかしソラ様!ソラ様は経験が浅く、まだ未熟でございます!アマテラスは日本の神をまとめる、最高神!アマテラスはそれではつとまりません!」

ソラ?ソラは私じゃなかった?あと未熟って、花さん酷すぎ。

「それは…」

「とにかく、スサノオ様と子神のソラ様とお決めになってください」



「スサノオさん、入りますよ」

そう言って、ツクヨミさんは和室のドアを開けた。そこには‼︎!…布団が敷いてあって、体を起こしている男の人がいた。顔が少し青ざめている。何だか懐かしい感じの雰囲気の人だ。

「なんですか?ツクヨミさん…」

「アマテラスが終焉した。それで、次のアマテラスにはソラ…新しく入った神谷疏楽を押したが、花にスサノオさんと相談しろと言われてきたんだ。」

「それならソラさんですね」

「なんでだ⁉︎アマテラスは代々女と決まっている!伝統を守らなければいけないだろう!」

「伝統を守るよりも、つないでいくことの方が大切です」

「俺らの番で伝統が終わったら、先代にしめしがつかない…」

「私たちの代でここが死んでしまった方がしめしがつかないと思いますが」

私がそう言うと、ツクヨミさんが叫んだ。

「お前は黙っとけ!」

しかし、これ以上不毛な争いは見ていてつまらない。

「え?でも花さんは『スサノオ様と子神のソラ様とお決めになってください』って言ってましたよね?」

ツクヨミさんが唸る。

「まあ、ここにきてから1日も経っていないお前と3人で話すより、俺とスサノオで話した方が早い!」

まだ粘るか。

「でも、その話には私も深く関わってきますよね?第三者というわけではないはずです」

「お前が話に入ったって、何も知らないじゃないか!」

「あら、まだ話のわかる方だと思いますよ?そこの脳筋猪よりは。ツクヨミさん、見た目に反して中身は脳筋なんですね。」

「なっ」

少しヒートアップしてきたかもしれない。まあ、私はしてないけど。


「ま、まあ、2人とも、落ち着いて!午後!午後決めましょう!」

スサノオさんの必死の仲裁に、流石の猪も止まるしかなかったようだ。



スサノオさんの部屋を出た。ツクヨミさんについていって、部屋を案内された。

そう言えば、うちのお兄ちゃんも猪みたいだったな。そんなことを考えていると、ツクヨミが振り返った。

「どうしたんだ?」

「いえ、お兄ちゃんのことを思い出していて…」

「隣にいた人か?」

「いえ、3年ほど前にいなくなった兄です。いなくなったって言っても…いるにはいるんですけど、なんだか様子がおかしくて…。急に冷たくなっちゃって…名前も同じで、漢字は違うんですけど、依代の首飾りもその兄が作ってくれたもので…お母さんが事故で死んでしまって…。泣いてばっかりだった私に…これをあげるから、泣いちゃだめだぞ、泣いても笑っても同じなんだから、笑っていようって」

そうまとまって無い話をたらたら話していると、ぽろぽろ涙が溢れてきた。ツクヨミさんが少し困った顔をしながら私を見る。


「あの時、泣いちゃダメだって言ったのに」

そして、心底だるそうに私の頭を撫でた。

「え」

私は目を見開いて、ツクヨミさんを見た。ツクヨミさんも、うすら笑いで私を見ていた。

「そばにいてやるって約束しただろ?」

「してないです」

そんなこと聞いてない。

「バレたか」

「もう!宙兄かと思ったのに!」

「そんなすぐに出てくるわけないだろ。すぐには、な」

私は大いに憤慨して、最後の一言を聞き逃してしまった。

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